「堀越捜査一課長殿」(江戸川乱歩)

意外な犯人、単純な手口

「堀越捜査一課長殿」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第20巻」)
 光文社文庫

警視庁捜査一課長・
堀越貞三郎は、ある日、
非常に分厚い封書を受け取った。
書簡箋七八十枚ほどに
及ぶそれを、
一通り読み通した堀越は、
興奮を抑えることが
できなかった。
彼が解決できなかった事件の
真相が綴られていたのだ…。

粗筋として記した部分は、
プロローグにあたる箇所のものです。
本編は手紙による告白文の形式で、
不思議な事件の、
それも不思議な真相について
語られていきます。

【主要登場人物】
堀越貞三郎
…捜査一課長。事件当時渋谷署の署長。
北園壮助
…銀行専務取締役。
 事件当時推理小説家として
 犯人の住むアパートに住んでいた。
大江幸吉
…北園の友人。事件当時の隣人。
 事件の容疑者。事件後行方不明。
弓子
…事件当時ホステス。
 大江の愛人、その後北園と結婚。
花崎正敏
…北園の友人。新聞編集長。

本作品の読みどころ①
書簡告白文形式という作品構成

書簡として書かれてある本編は、
さらに「前段」と「後段」に
章立てされています。
「前段」では事件の状況が詳細に語られ、
「後段」では
その謎解きが行われていきます。
そうした展開が実に巧妙で、読み手は
作中の堀越氏同様の興奮を
味わうことができる
しくみとなっているのです。

本作品の読みどころ②
ホラーかオカルトか?幽霊登場

実は「後段」は
内容的にはさらに二つに分かれます。
その「後段前半部」では、
書簡の書き手の北園と弓子夫妻に
降って湧いた幽霊騒ぎが
綴られていきます。
「前段」の
いかにも推理小説的な展開から一転、
ホラーかオカルトか?と
思われるような流れになります。
実はこれが「後段後半部」における
真の謎解きの布石となっていくのです。

本作品の読みどころ③
意外な犯人、単純な手口

真犯人は実に意外ですが、
それはぜひ読んで確かめてください。
トリックもわかってしまえば
なるほどと思う単純なものばかりです。
でもそれ自体が「工夫」なのです。
単純なものであればあるほど、
気付きにくいという
人間の思考の盲点を明らかにした
作品なのです。

さて、1956年に発表された本作品、
初期の頃の短篇作品のような
「キレ」や「ひねり」は残念ながら
今ひとつと言わざるを得ません。
この頃乱歩は少年向け作品を年3~4作
同時進行で書き続けていたため、
大人向け本格作品に
手が回らなかったのでしょう。
この年はこの一作だけしか
発表していないのです。

それでも書簡告白文という
乱歩にしては珍しい形式、
展開の妙、意外な犯人とトリック等、
今読んでも十分楽しめる一作です。
江戸川乱歩晩年期の短篇ミステリ、
いかがですか。

(2020.11.29)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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