「灰神楽」(江戸川乱歩)

乱歩の「妙な味」のない本格作品

「灰神楽」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第3巻」)光文社文庫

「江戸川乱歩全集第3巻」光文社文庫

机上にあった拳銃で、
ものの弾みで一郎を
殺害してしまった庄太郎。
一郎は彼のパトロンであったが、
片意地の悪い性格で
いつも彼を困らせていた上、
恋敵でもあった。
いずれは捜査の手が
及ぶと考えた彼は、
ある計略を実行する…。

犯人および犯行状況が
最初から提示されているのですから、
犯人捜しやトリックの解明などは
ありません。
しかし本作品には謎解きの要素があり、
本格的な探偵小説の体を成していると
考えます。
江戸川乱歩の味わいある一篇です。

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本作品の読みどころ①
犯罪者の異常心理

殺害された一郎が
眉間を貫かれていたことや、
彼の部屋の中での凶行であること、
部屋に争った形跡のないことや
拳銃は彼の所有するものであることを
勘案すると、
強盗や通り魔的なものではなく、
面識のある人物による犯行であることは
疑いようがありません。
指紋を拭き取ってはあるのですが、
容疑者は他に考えられず、
逮捕は時間の問題であることは
誰にでもわかることです。

にもかかわらず、
この庄太郎は策を弄して犯罪を
他になすりつけようとするのです。
悪あがきにも似た行為を、
罪を逃れる決定的な方法と捉え、
楽観的に行う心理は、
正常な人間には理解できません。
乱歩はこうした犯罪者の異常心理を
見事に提示しています。

本作品の読みどころ②
犯罪者の奸計と謎解きの妙

庄太郎の計略は
冷静に考えると滑稽ですらあります。
事件後、弔問に訪れた際に、
一郎の部屋にあった火鉢の中に
野球のボールを潜ませ、
窓から入り込んだボールが
拳銃をいじっていた一郎を直撃し、
その弾みで暴発した事故であることを
説くのです。

自宅に隣接している広場で
野球をしていた弟の二郎は、
それを聞いて恐ろしくなります。
その時間に確かにボールが
自宅周辺へと飛んでいったのですから。

もちろんその奸計は
翌日までに見破られ、
庄太郎は逮捕されるのですが、
では二郎は
なぜその嘘を喝破できたのか?
そこが本作品の謎解きの部分なのです。
ぜひ読んでその謎を
解いてみてください。

大正十五年に発表された本作品、
掌篇ながらよくできているのですが、
一般の評価は今ひとつです。
解説には乱歩自身が本作品について
「全く黙殺されてしまった。
これは本格ものであって、
私の妙な持ち味が少しも
出ていなかったからであろう」

記しています。
やはり「妙な持ち味」が
乱歩の「味」なのです。

(2020.11.30)

〔本書収録作品一覧〕
踊る一寸法師
毒草
覆面の舞踏者
灰神楽
火星の運河
五階の窓
モノグラム
お勢登場
人でなしの恋
鏡地獄
木馬は廻る
空中紳士
陰獣
芋虫
私と乱歩 間村俊一

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〔青空文庫〕
「灰神楽」(江戸川乱歩)

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