「裏庭」(梨木香歩)②

「裏庭」は何を表しているのか?

「裏庭」(梨木香歩)新潮文庫

照美が入り込んだ
「裏庭」の世界は、
崩壊が始まっていた。
それを食い止めるためには、
バラバラにされた龍の骨を
一つにまとめなくては
ならないのだという。
照美はその世界の住人・
スナッフやテナシとともに
「裏庭」救済の行動に出る…。

「裏庭」は何を表しているのか?
単なる「異世界」では
ないのではないか?
なぜならこの「裏庭」は、
それを司る「庭師」によって
その姿を変えているのですから。
照美が入り込んだ「裏庭」は、
レベッカが「庭師」として
創り上げた世界です。
その「裏庭」に入り込んだ照美は
レベッカの魂を救済し、
新たに「裏庭」に深く関与します。
その結果としてその異世界は姿を変え、
おそらくは照美の精神を
反映したものになっていくのでしょう。

一方、終末場面で「裏庭」は、
かつて拒み通したレイチェルを
受け入れます。
幼馴染み・丈次とともに。
「裏庭」は照美だけの世界ではなく、
レイチェルや丈次の意志も受け入れて、
大きく変容していくことが
想像できます。

今回再読して気付いたのは、
バーネットの名作「秘密の花園」との
関連です。
様々な点で
共通する部分が見られるのです。
そのうちの二つに
注目したいと思います。

一つは以前の「庭師」(庭の管理者)が
不在となり、
長期間うち捨てられていたものを、
それぞれ主人公が再生させるという
物語の展開です。
「花園」では主人公・メアリを
コリンとディコンの二人がサポートし、
三人組として再生させるのですが、
「裏庭」では
照美を見えない形で支援していたのは
レベッカと純(照美の亡くなった弟)、
そして描かれざるその後の「裏庭」は
照美・レイチェル・丈次の
三人組なのです。

一つは庭を再生させることにより、
周囲の人間もまた
「再生」されていくという主題です。
「花園」の再生により、
少年少女三人の成長はもちろん、
伯父クレイヴンの心、
そしてクレイヴンとコリンの
親子関係もまた「再生」されていきます。
「裏庭」でも昨日記したように、
異世界の再生は照美だけでなく、
母幸江・父徹夫・レイチェルと丈次をも
「再生」させていくのです。
おそらくすでに亡くなっている
レベッカと純の魂をも
救済していると読み取れます。

庭に生育する植物たちに
光を当てることにより、
自らも光を受け、
そして「光を求める力」を
「再生」させていく。
その構図は両者で全く同一なのです。

私たちの心の「庭」はきちんと手入れが
行き届いているのかどうか。
いや、私たちは自らの心の「庭」に
しっかりと手を加え、水を注ぎ、
光を当てているか。
深く考えさせられます。

※どちらも英国の庭園が舞台です。
 「花園」が純粋な
 英国庭園であるのに対し、
 「裏庭」の「庭」(異世界ではなく
 洋館の庭)は英国風の様式に
 日本の植物を加えた和洋折衷。
 本作品の「庭」は、あたかも
 バーネットの「秘密の花園」に
 梨木が自らのエキスを加えたような
 様式であり、
 本作品の構造と重なります。

※作者・梨木
 「秘密の花園ノート」を著すほど
 「秘密の花園」に精通しています。
 本作品は「秘密の花園」から
 大きな影響を受けていることに
 間違いないと思われます。

(2021.1.28)

Jaesung AnによるPixabayからの画像

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