「幽霊塔」(黒岩涙香)

何度も言います。面白さこの上なしです。

「幽霊塔」(黒岩涙香)
(「明治探偵冒険小説集1 黒岩涙香集」)
 ちくま文庫

「明治探偵冒険小説集1 黒岩涙香集」

叔父が購入した屋敷は、
過去に起きた
忌まわしい事件のために
「幽霊塔」と呼ばれていた。
その屋敷の下検分を
命じられた「余」は、
そこで誰も知るはずのない
時計台のねじを巻いていた
不思議な美女と出会う。
彼女は一体何者なのか…。

明治の世に、
海外の探偵小説を翻訳・翻案して紹介し、
後の江戸川乱歩横溝正史らにも
多大な影響を与えた作家・黒岩涙香
その名は以前から
聞き知っていましたが、
実際に作品を読むのははじめてでした。
本書「明治探偵冒険小説集1」に
収録されている「幽霊塔」、
四百七十頁あまりの大作ですが、
あまりの面白さに、
一気呵成に読んでしまいました。
まずは登場人物一覧から。

【主要登場人物一覧】
丸部道九郎
…「余」。主人公、語り手。
丸部朝夫
…道九郎の叔父。幽霊塔を買い取る。
松谷秀子
…道九郎が出会った謎の美女。
 幽霊塔の秘密を知っているらしい。
浦原浦子
…朝夫の養女で道九郎の許嫁。
 秀子に嫉妬する。
輪田夏子
…かつて幽霊塔で養母を殺害し、獄死。
輪田お紺
…夏子の養母。
 幽霊となって現れるとの噂。
権田時介
…弁護士。秀子につきまとう。
虎井夫人
…秀子の乳母。怪しい行動をする。
高輪田長三
…幽霊塔の売主。
森主水
…探偵。

created by Rinker
¥1,265 (2024/05/18 17:44:01時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
怪美人・秀子の抱える秘密とは?

絶世の美女であり、正体不明の秀子。
彼女は時計塔とどう関わっているのか?
浦子が騒ぎ立てるように
殺害されたお紺の下女なのか?
彼女が道九郎の求愛を
拒み続けるのはなぜか?
権田弁護士や虎井夫人は
彼女のどんな弱みを握っているのか?
彼女の成し遂げなければならない
「密旨」とは?
謎が渦巻きながらも
次から次へと窮地に立たされる
秀子の身の上には、
読み手もついつい
感情移入してしまいます。
面白さこの上なしです。

本作品の味わいどころ②
暗躍する殺人者は誰?

道九郎は屋敷内で
壁から伸びてきた毒の刃で命を狙われ、
その僅かの時間に
浦子が忽然と姿を消す。
掘りから引き上げられたのは
浦子の着物を着た女性の首なし死体。
しかしそれは別人のものだった。
そして朝夫が毒殺されかかる。
犯人は間違いなく内部の者。
殺人者は一体誰?
その謎を解くために道九郎は
弁護士・権田と対峙し、
謎の「蜘蛛館」に潜入、拉致、脱出し、
秀子の謎を解く鍵を握る人物・
ポール・レペル博士を探し出す。
謎解きと冒険の要素を
すべて盛り込んだかのような展開が
続きます。
本作品は超一級の
探偵小説・冒険小説として
完成しているのです。
面白さこの上なしです。

本作品の味わいどころ③
果たして財宝は何処へ?

暗号文をとき、時計塔の深部へと
侵入する秀子と道九郎。
物語冒頭で示された財宝に関わる
暗号文(作中では咒語)は、
展開めまぐるしい中盤では
忘れ去られたかのように
扱われるのですが、最終盤は
俄然財宝探しの冒険へと変遷します。
果たして財宝は存在するのか?
そして二人は
それを見つけることができるのか?
面白さこの上なしです。

海外作品を
日本の読み手に届けるという
我が国始まって以来の難作業を、
涙香は試行錯誤していたのでしょう。
舞台をイギリスに
据え置いておきながら、
登場人物は日本人名に
置き換えるという、
今考えると噴飯物の設定なのですが、
そんなことが気にならないくらいの、
息継ぐ暇も無いほどの
興奮の連続です。
何度も言います。
面白さこの上なしです。

(2021.2.23)

Peter HによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「幽霊塔」(黒岩涙香)

【関連記事:明治の時代の探偵小説】

【明治探偵冒険小説集はいかが】

【黒岩涙香の本はいかが】

created by Rinker
¥2,750 (2024/05/19 00:17:06時点 Amazon調べ-詳細)

【今日のさらにお薦め3作品】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA