「アマノン国往還記」(倉橋由美子)①

一体何のメタファーなのか?

「アマノン国往還記」(倉橋由美子)
 新潮文庫

モノカミ教布教のため、
アマノン国へと派遣された
宣教師団。
しかし国を被っている
バリヤの突破に成功し
入国できたのは、
宣教師Pただ一人だった。
浜辺に打ち上げられた彼が
意識を取り戻すと、
そこには裸の女性たちがいて…。

問題作を次々と発表した
作家・倉橋由美子の、
そのエッセンスが最も凝縮されている
一作がこの
「アマノン国往還記」といわれています。
読んでみました。
理解不能の全編エログロ作品です。
この「モノカミ世界」と「アマノン国」は、
一体何のメタファーなのか?

「アマノン国」が日本を表していることは
間違いありません。
首都・トキオ、
第二首都・キオトという地名。
実質無宗教であり、
宗教ビジネスとしての
「ブッダ教」「シントー教」などが
存在している。
内閣総理大臣以上の力を持った
政治的黒幕の存在。
美しい「擬似的自然」に囲まれ、
人工的につくられた快適な環境。
ありあまる「モノ」。
すべてが日本を風刺していると
捉えられます。

それでいて
「アマノン国」は女性の国です。
女性が国のすべてを担い、
男性は排除されているのです
(処分されるか精子提供マシンとして
国の管理下で幽閉されている)。
女性の圧倒的優位社会は、
日本の姿とは180度異なります。

読み進めていくと、
この「アマノン国」はバリヤで被われ、
完全鎖国状態となっていることが
わかります。
そしてバリヤの外はすべて
「モノカミ世界」の勢力下にあるのです。
文字通り「モノカミ世界」は
一神教で支配されているのです。

この「モノカミ世界」ですが、
教団の最高指導者の役職名は「書記長」。
だとすれば、
共産圏の国を表しているのでしょうか。
資源は豊富であるが、
決して快適ではない。
個人の自由が
かなりの程度で抑圧されている。
国土の大半が
過ごしやすい環境ではない。
すべての国々を併合し、
その完成としてアマノン国の吸収を
もくろむという支配欲。
そうした作品中の設定と、
本作品の発表年
(昭和61年)から考えると、
該当するのは
ソビエト連邦しかありません
(昭和の時代、
中国はまだ力がなかった)。

本作品を未来世界と仮定するならば、
この作品構造は、
「ソ連の支配が世界にあまねくおよび、
社会主義・共産主義が
疑いを挟むべき何ものもない
普遍の概念となり、もはや
国という概念さえなくなった世界」と、
「それらの一切を受け付けずに
独立を維持していた閉鎖国家」日本との
対立ということになるのでしょうか。

そんな難しいことを
考える間もないくらいに、
次から次へと現れる性的表現の数々。
疑問と興奮はしかし、
衝撃的な最終場面と、
大どんでん返しのエピローグで
幕切れとなります。

子どもには絶対に薦められない、
大人だけの(もしかしたら男性だけの?
でも書いたのは女性)
エンターテインメントです。
怖いもの見たさに、いかがでしょうか。

(2021.5.12)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA