「定年後」(楠木新)

百通りの「定年後」があるはずなのですから

「定年後」(楠木新)中公新書

近年、定年退職後の生き方に
焦点を当てた本が
ベストセラーになることが
多いようです。
本書もその一冊であり、しかも
本書刊行の一年後には「定年準備」
さらに二年後には「定年後のお金」と、
中公新書の一連のシリーズとなった
第一作です。

定年退職を迎え、
何をしていいかわからない。
そんな会社型人間の悲哀は、
小説やドラマ等でも度々目にします。
そうならないためには
会社とは別の「自分の居場所」を
持つことが大切であるということ
(それは趣味の世界であったり、
新しい仕事であったり、
地域社会とのつながりであったり
すること)も、
形を変えていろいろな方が
述べていることです。
しかし、本書には
示唆に富む記述がいくつも見られ、
定年まであと6年と迫った私には、
考えさせられることが多々ありました。

一つは、そうした「自分の居場所」が、
単なる趣味では
いけないのではないかという視点です。
「何に取り組むにしても
 趣味の範囲にとどめないで、
 報酬がもらえることを
 考えるべきである」

周囲からの評価を
お金に換算する感度が必要であること、
お金を稼げることは
誰かの役に立っている証左であること、
お金を稼げるレベルをめざすことは
自分の力量を高めることに
繋がること等、
新しい気づきがありました。しかし、
それを私自身に当てはめようとしても、
趣味はあってもそれを収入まで
つなげる道筋など想像できません。

一つは、「社会とどうつながるか」という
問題提起です。
地域社会へのアプローチの重要性や
自分の得意分野を生かした
転職の在り方、
家族との関係改善、
同窓会の効用等、
いくつかのアプローチが
紹介されています。
しかしこれも、
メーカーの部長職から美容師、
信用金庫支店長から
ユーモアコンサルタントへの
転向の例を挙げられても、
参考にするのは難しそうです。
そもそも私のような人との付き合いが
苦手な人間にとっては
ハードルの高いことばかりです。

いやいや、あれも難しい、
これも難しいといってばかりいては、
今の世の中、生きていけないのです。
退職後の人生もまた、
挑戦の連続であり、
試行錯誤の繰り返しであるに
違いありません。

結局大切なのは、
「自分で考える」という
ことなのでしょう。
百人の人間がいれば
百通りの人生がある以上、
百通りの「定年後」が
あるはずなのですから。

(2021.6.2)

TumisuによるPixabayからの画像
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