有島は少女の脚を見ていた
「フランセスの顔」
(「生まれ出づる悩み」)(有島武郎)
角川文庫

「私」は
地方のある農家の家を訪れる。
一度目は晩秋の頃。
その家に住む
少女・フランセスを、
出会ったその瞬間から
「私」は強く愛した。
二度目の訪問は翌年の盛夏の頃、
そして三度目は
さらに翌年の早春の頃であった。
フランセスは…。
「お前はもう童女じゃない、
処女になってしまったんだね」。
「私」がファニー(フランセスの愛称)へ
語りかけた一言が、
本作品のすべてです。
有島武郎はアメリカ留学をした際に、
友人アーサー・クローウェルの一家と
親しくなります。
その13歳の妹がファニーでした。
有島は晩秋、翌夏、
そしてさらに翌春の三度、
クローウェル一家を訪問し、
ファニーと対面しています。
本作品は、その三回の出会いの中での、
有島の目に映った
ファニーの変遷を描いているのです。
私小説ですが、ほとんどは事実を
そのまま記したと考えられ、
当然、「私」=有島といえるでしょう。
さて、
有島はファニーのどこを見ているか?
笑顔と脚です。
一度目は晩秋の季節。
ファニーは客に挨拶するよう
父親から促されます。
「ファニーは頸飾りのレースだけが
眼立つほど影になった室の隅から
軽く頸をかしげて
微笑を送ってよこした。」
はにかむファニーのようすが
描かれています(一度目の訪問時は、
「脚」についての記述はありません)。
二度目は夏の盛りの時期です。
ここで有島の視線は
彼女の脚に向かっています。
「跣足(はだし)になった肉づきの
格好な彼女の脚は、
木柵の横木を軽々と飛び越して
林檎畑にはいって行った。」
「彼女は
上気した頬を真っ赤にさせて、
スカーツから下は
むきだしになった両足を
つつましく揃えて立っていた。」
そしてさらに、
「足許を見ると、(中略)
森の中に逃げ込むニンフのような
ファニーを追いつめて
後ろから抱きすくめた私は
バッカスのようだった。」
その笑顔は、
「ファニーはシャンパンが笑うように
笑い続けて身もだえした。」
そして三度目の早春の季節。
ファニーは一転して、
「けっして素足を
人に見せなくなった。」
それでも有島は
「私は彼女の足許に肱をついて
横たわりながら
彼女の顔を見上げた。」
有島はファニーの表情に
「媚びるような表情」を発見し、
失望してしまいます。
それが冒頭で取り上げた
有島の一言につながるのです。
有島の愛していたものは、
完璧なまでに汚れのない少女の
笑顔と脚だったのでしょう。
少しでも色気が出てくれば
もうそこには
価値を見いだせないのです。
ただし、本作品は
決して少女偏愛の物語ではありません。
純真なものに対する
有島自身の憧憬の心を、
米国の田園風景の美しさとともに、
丹念に綴った私小説なのです。
情趣溢れた
珠玉の一品だと思うのですが、
残念ながら本作品も絶版中。
角川文庫版か岩波文庫版の中古本、
もしくは
青空文庫で読むしかありません。
※調べてみると、
有島には少女嗜好が
少なからずあったという資料を
いくつか見つけました。
(2021.6.12)

【青空文庫】
「フランセスの顔」(有島武郎)
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