「クララの出家」(有島武郎)

さて、そのクララとは…

「クララの出家」(有島武郎)
(「生まれ出づる悩み」)角川文庫

クララは、出家する前日の朝、
パオロ、フランシス、
オッタヴィアナの
三人の男たちが現れる
奇妙な夢を見て目覚める。
夢の中で、クララは
様々な葛藤を強いられる。
そして最後には天使ガブリエルの
炎の剣に貫かれ、清められ…。

私は歴史にも宗教にも詳しくないので、
一読した段階では何を書いているのか
よくわかりませんでした。
調べてみると本作品、
十三世紀の実在の人物クララが、
フランチェスコに
帰依するまでの心情を、
有島が物語として表現したものでした。
さて、そのクララとは…。

アッシジのクララはイタリアの聖人。
1194-1253。
1210年、クララはアッシジの路上で、
フランチェスコの説教を耳にする。
彼の言葉にクララは心を動かされる。
クララの両親は娘を裕福な男に
嫁がせることにしたため、
1212年3月20日、
クララは家を飛び出し、
フランチェスコの指導をあおぎ、
修道生活に入る。
…ということでした。

本作品、
短編ながら構成がちょっと複雑です。
三つの部分から成り立ち、
①出家する前日未明のクララの夢、
②出家する前日の礼拝、
③出家する夜
、と
場面が分かれています。
さらに、①の部分は三人の男の
登場場面に分かれてるのです。
重要なのはこの①の部分と考えられ、
有島の主観が明確に現れています。

第一の男は、
モントルソリ家の青年パオロ。
クララはこのパウロに
心と体を許しそうになり、
その罰として
地獄に落ちる夢を見るのです。
この夢はクララの身体的な欲望を
表しているものと考えられます。
たとえ聖女であっても、
心の奥底には人間として当然の欲求が
ある、ということでしょうか。

第二の男はフランシス。
ここで彼は高らかに宣言します。
「私がもらおうとする妻は
君らには想像もできないほど美しい、
富裕な純潔な少女なんだ」。
ここは、フランシスとクララの
結びつきが精神上のものであり、
かつ崇高なものであることを
謳っているのでしょう。

そして第三の男は
許婚者オッタヴィアナ。
彼の両脇には
クララの父と母も現れます。
そして三人は足許のぬかるみの中に
じりじりと沈み込んでいきます。
自分の選択は、
現実を捨て去るのであるという
クララの覚悟の表れでしょうか。

肉体的な欲求を封印し、
神を仲立ちとして
精神的に強く固く結ばれる。
現代の我々では理解の難しい世界です。

名作「一房の葡萄」をはじめ、
有島にはキリスト教と関わりのある
作品がいくつかあります。
そうした作品理解に繋がるとともに、
有島の宗教観、死生観を探る上で
手がかりとなる一篇といえるでしょう。

※本作品、
 一時岩波文庫で復刊したのですが、
 今現在、再び絶版状態です。
 本書の角川文庫版もとうの昔に
 絶版です。
 青空文庫か中古本を
 当たるしかありません。

(2021.6.19)

Pete LinforthによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「クララの出家」(有島武郎)

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