「サアカスの馬」(安岡章太郎)

勝つことは難しいが、負けることはない

「サアカスの馬」(安岡章太郎)
(「教科書名短篇少年時代」)中公文庫

「僕」はまったく取り柄も
やる気もない生徒だった。
今日も授業の最中、
立たされた廊下から見える
サアカス団の痩せこけた馬に、
「僕」は思いを馳せる。
あの馬も気の毒だなあ、と。
でもその馬は、サアカス団の
花形スターだった…。

この主人公・何の取り柄もない生徒・
ヤスオカ少年の
「われにかえって一生懸命
 手を叩いている自分に気がついた。」

で本作品は終わります。
中学校の教科書
掲載されている本作品、
ネットで指導案を調べてみると、
この馬を見て、
ヤスオカ少年の気持ちが前向きに
変容したことを捉えさせる展開例が
散見されました。
予想される生徒の反応
「さえない馬が頑張っているのだから
自分も頑張ろう」。
いかにも中学校の授業に
もってこいの題材です。

でもちょっと待ってください。
ヤスオカ少年が前向きな気持ちに
切り替わったことを示す部分は
本文のどこにもありません。
この作品の書かれざるその後を
考えるのではなく、
ここに書かれてあるヤスオカ少年を
しっかり捉えることこそが
大切だと思うのです。

ヤスオカ少年の素晴らしいところは、
自分に何の取り柄がなかろうとも、
めげずに生きていること、
そして優れた他者をしっかり
評価できることだと思うのです。
貧相な馬が実は
多芸に秀でていたと知ったとき、
がっくりと落ち込むようであれば、
彼の人間的度量の深まりは、
今後期待できないtと思うのです。
また、
馬の優秀さをやっかむのであれば、
彼は相当に器の小さい人間になると
思います。でも彼は、
才能のある馬に対して惜しみない
賞賛の拍手を、無意識のまま
送ることができているのです。

私はここにヤスオカ少年の
人間としての大きさを
感じてしまうのです。
決して能力は高くはないのですが、
しなり強さがあるのです。
成果を上げることは
少ないかもしれませんが、
打たれ強さがあるのです。
そう、勝つことは難しいのですが、
彼は決して負けることはないのです。

昨今の子どもたちに足りない部分が
まさにそこだと思うのです。
能力は高い割に折れやすい。
成果を上げるものの繊細でもろい。
勝つことがあるものの、
一度負けると再起不能になる。
温室の植物のようにひ弱なのです。

私たちの社会は
成果のみを求めすぎるあまり、
人としての強さ逞しさについて
無頓着だったような気がします。
ヤスオカ少年に
見習わなければなりません。

※中学校の教科書に載っている
 有名作品を集めた本書。
 ヘッセ「少年の日の思い出」
 永井龍男の「胡桃割り」は
 記憶にあるのですが、
 安岡章太郎の本作品は
 学習した覚えがありません。
 もしかしたら私が中学生のときの
 教科書には載っていなかったのか、
 あるいは私が授業中寝ていたか…。

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