「町でいちばんの美女」(ブコウスキー)

愛情に飢えた、ぱさぱさに乾いた心が痛々しい

「町でいちばんの美女」
(ブコウスキー/青野聰訳)
(「町でいちばんの美女」)新潮文庫

町でいちばんの美女・
キャスは20歳。
美しいだけでなく、頭もよく、
感性も豊かであった。
彼女は町で
いちばんの醜男である「私」を
気に入ってくれた。
でも、彼女は…
どこかふつうではない、
狂気といわれる
精神の持ち主だった…。

読んで切ない気持になる作品です。
描かれているのは「破滅型」の女性です。

彼女は5人姉妹の末っ子。
幼くして両親に捨てられ、
修道院で育った女の子です。
ナイフのように尖った性格のため、
院内のほぼすべての少女たちと
いざこざを起こしてきました。
彼女の「狂気」はどこか?
自分の美しさを憎んでいる点です。

やることが常軌を逸しています。
自分の鼻にピンを突き刺す。
「あたしが鼻にピンを刺すと
 あんたが傷つくって?」

すごむのですが、「私」の
「その通りだ。嘘じゃない」の一言に、
「わかったわ。もうしないから
 気をとりなおしてよ」

実は心根は優しいのです。

そうかと思うと
その次にはピンを顔に刺す。
「人が見かけでしか
 判断してくれないからよ。
 美しさなんて意味ないの、
 どうせ消えてしまう。
 醜い方がどれだけ幸せか、
 あんたはわかってないの。」
躰目当てにしか
男が寄ってこないということを
痛いほど知っているのです。

さらに数日後、
彼女がドレスを脱ぐと、
その首回りには
咽を搔き切った汚らしい傷痕が。
「10ドルもらってから脱ぐの、
 するとみんなその気を失くすのよ。
 10ドルはいただき。愉快よ。」

傷痕以上に、愛情に飢えた、
ぱさぱさに乾いた心が
痛々しい限りです。

「私たちは抱きあった。
 キャスは声を殺して泣いていた。」

結ばれた二人なのですが、
長続きしません。
彼女はその後、さらに咽を切り、
自ら命を絶ちます。

「言葉のはしはし、
 動きの一つ一つに、
 彼女の不安はあらわれていた。
 だというのに私は、
 まったく感じとろうとしなかった。
 だらしがなさすぎた。
 私には生きる値打ちはなかった。」

彼女の渇いた心に、
「私」は水を与えることが
できなかったのです。

鬼才・チャールズ・ブコウスキーの
短編集の冒頭の一作品。
ここからすでに衝撃度抜群です。
時間をかけて
じっくり読み進めたい一冊です。

※なお、女性と未成年には
 お薦めできそうにない作家です。
 収録されている短篇のタイトルには
 「ファックマシーン」
 「10回の射精」
 「人魚との交尾」
 「白いプッシー」等々、
 刺激的すぎる言葉が並びます。

※近年再評価が進み、
 ブコウスキー作品はちくま文庫から
 3冊ほど復刊しています。

(2021.9.16)

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