「オクタヴィ」(ネルヴァル)

現実と夢の境目をぼやかしているかのよう

「オクタヴィ」(ネルヴァル/稲生永訳)
(「百年文庫061 俤」)ポプラ社

イタリアを見たいという
はげしい欲望に
かりたてられたのは、
一八三五年春のことであった。
意のままにならない恋は
パリに残して、
私は発たなくてはならなかった。
この気晴らしによって
あの恋から逃れたいと
思ったのである。…。

粗筋ではありません。
冒頭の一節からの抜粋です。
なぜそうしたか?
わからないからです。
何度読んでも。
細かい筋書きが。
はっきりとは。

語り手の男性・「私」とおそらくは
三人の女性との出会いと別れの
物語なのだろうと、
そこまではわかります。
一人はタイトルにもなっている
「オクタヴィ」という名前の少女。
一人はパリで交際していた女性
(作品中には登場しない)。
もう一人はナポリの夜に出会った女性。

「私」はパリ女への恋が成就せず、
それを忘れるためにイタリアに出掛け、
オクタヴィと出会い、
新しい恋に落ちた。
明日もう一度会う約束をした晩に、
不思議なナポリ女と出会い、
誘惑された。
このナポリ女はパリ女によく似ていて、
誘惑をはねのけたものの
「私」はパリ女のことを
強く意識するようになってしまった。
そのため翌日オクタヴィと会っても
愛を語ることができず、
それどころかそうなった顛末を
すべて彼女に話して聞かせた。
こんなところではないかと思うのです。

わかりにくい理由の一つは
オクタヴィ以外の女性に
名前が与えられていないこと。
しかもオクタヴィも
「イギリス娘」「英国娘」「彼女」などと
表記されているため、
どれがどの女性かわかりにくいのです。

そして短篇ながら構成が複雑です。
冒頭では現在進行形で
書かれているものの、
終末ではじめて数年後の
回想であることがわかるしくみです。
また途中に挟んだ
「三年後に書いた手紙」によって
件の一夜が語られることもあり、
事実の時系列が
非常につかみにくいのです。

さらに全編まわりくどい表現と
抽象的な言い回しの連続です。
このネルヴァルという作家が
そうした表現を好んで用いているのか、
それとも翻訳が
あまりに詩的に過ぎるのか。

もしかしたら作者は
あえてこのようなわかりにくい
表現手法をとることにより、
「私」の体験した一夜を
より幻想的なものに
仕上げようとしたのかも知れません。
明確に語らず、
輪郭を朧気にすることにより、
現実と夢の境目
をぼやかしているかのようです。

難解で耽美な夢のような
ネルヴァルの一篇。
眠れない夜にいかがでしょうか。

(2021.9.28)

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