旧角川文庫の芥川龍之介

複数の出版社から出ている文庫本、どれを選ぶか?

「羅生門・芋粥」
「偸盗・戯作三昧」
「蜘蛛の糸・地獄変」
「舞踏会・蜜柑」
「杜子春・南京の基督」
「藪の中・将軍」
「トロッコ・一塊の土」
「少年・大道寺信輔の半生」
「河童・玄鶴山房」
「或阿呆の一生・侏儒の言葉」
(芥川龍之介)角川文庫

文庫本。
現代作家であれば、
一つの作品が複数の出版社から
出ていることはあまりありません。
ところが、
明治・大正期の著作権の保護期間の
終了した作家については、
複数の出版社から
文庫本が出されています。
どれを選ぶか?
それがなかなか難しいのです。

芥川龍之介
いくつかの出版社から
文庫本が出ています。
現在流通しているものの中から
選ぶとすれば、
ちくま文庫刊「芥川龍之介全集」全8巻が、
その名の通り小説については
ほぼすべてが収録されていて
ベストと思われます。
そこまで読まなくてもいいと
いうのであれば、
新潮文庫から出されている7冊でも
十分です。
でも、捨てがたい魅力を放っているのが
角川文庫版です。
現在のものではありません。
旧版全10巻です。

活字が小さく読みにくく、
註釈も後ろにまとめられていて
使いにくく、
何よりも昭和期のものであり、
紙も黄ばみ、
装幀もだいぶ痛んできました。
それでも捨てられません。
学生時代に8冊を揃え、
残り2冊を数年前に
ようやく見つけ出して購入
(その2冊は私が高校生になる前に
絶版となっていて
当時は入手できなかった)、
全10巻を揃えました。
角川文庫旧版にこだわる理由は何か?
巻末の充実した解説・資料です。

まず頁数からして
現代の文庫本の巻末とは大違いです。
註釈を除けば
以下のようになっています。
第1巻:37頁、第2巻:27頁、
第3巻:24頁、第4巻:23頁、
第5巻:22頁、第6巻:29頁、
第7巻:26頁、第8巻:28頁、
第9巻:44頁、第10巻:26頁、という
大容量です。

内容も充実しています。
「作家解説」「作品解説」「年譜」は
もちろん掲載されていますし、
詳細に、しかも
密度濃くまとめられています。
「主要参考文献」には、
芥川やその作品を
もっと深く知るための手がかりが
豊富に紹介されています。
「同時代人の批評」は貴重です。
同じ作家だけに着目しても、
夏目漱石、小宮豊隆、佐藤春夫
菊池寛上司小剣里見弴
宇野浩二、広津和郎、
田山花袋といった名前が見つかります。
中でも第9巻には、
複数名の評論家・文筆家が集っての
座談会形式による合評の様子が
記されていて興味を引きます。

統一された渋いデザインの表紙も、
味わい深く魅力的です。
近年は意味のない写真を使ったり、
アニメとコラボしたイラストを
使用したりと、
製作者のセンスを疑いたくなるような
文庫本も見受けられますが、
かつてはこのように表紙デザインにも
出版社は力を注いでいたのです。

単に作品のテキストだけであるならば、
ちくま文庫版全8冊が
一揃いあれば事足ります。
しかし本というのは
それだけではないのです。
この旧角川文庫版芥川龍之介全10冊、
私にとって一つの宝物となっています。

(2021.11.9)

PexelsによるPixabayからの画像

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