クリスティの面白さにまたしても打ちのめされた
「そして誰もいなくなった」
(クリスティ/青木久惠訳)
ハヤカワ文庫

「そして誰もいなくなった」
(クリスティ/清水俊二訳)
ハヤカワ文庫

孤島に招かれた
八人の男女と二人の使用人。
晩餐の後に流れたレコードからは
十人全員の過去の罪状を
告発する声が流れる。
その罪は法で
裁けなかったものばかりだった。
やがて一人が毒殺され、
邸内には
不安と疑心暗鬼が広がる…。
五十を過ぎるこの年になるまで、
海外のミステリについては
無視し続けていました。
乱歩や横溝などの
古典的国内ミステリを読みあさるのに
熱中していたからです。
しかし昨年末にクリスティの
「オリエント急行の殺人」を読み、
その面白さに驚き、ついに
二冊目となる本書を読んだ次第です。
【主要登場人物】
ロレンス・ウォーグレイヴ…元判事。
ヴェラ・クレイソーン…体育教師。
フィリップ・ロンバード…元陸軍大尉。
エミリー・ブレント…老婦人。
ジョン・マッカーサー…退役軍人。
エドワード・アームストロング…医師。
アンソニー・マーストン…青年。
ウィリアム・ブロア…元警部。
トマス・ロジャーズ…執事。
エセル・ロジャース…トマスの妻。
本作品の味わいどころ①
本当に十人全員が殺害される
絶海の孤島の中で
十人の人間が次々に殺害され、
それは最後の一人まで残らず続きます。
多くのミステリでは、
殺害予告された全員ではなく、
最後の善良な人間が
名探偵の活躍によって
犯人の手から守られるという筋書きが
見られますが、
本作品は全員死亡します。
これでもかという慈悲もない筋書きに、
戦慄させられました。
ただし、殺人の描写はいたずらに
過激になったりしてはいません。
常に淡々と描かれ、
乱歩のようなグロテスクさや
横溝のようなおどろおどろしさは
ありません。
それでいながら底の知れない恐怖に
読み手も襲われるのです。
本作品の味わいどころ②
犯人はいったい誰?
舞台が絶海の孤島である以上、
十人の中の誰かが犯人であることに
疑いはありません。
にもかかわらず、本編の最後まで
犯人は明かされない絶妙な構成に
成功しています。
犯人は○○○に違いないと読み進めれば
次の場面では殺害され、
では△△△かと疑えば、
やはり次には退場し、
最後まで読み進めると
「もしかしてホラー?」とさえ
思えるほどです。
最後の「手記」ですべてが明かされ、
その筋書きの巧妙さに
ただただ驚くばかりです。
本作品の味わいどころ③
見立て殺人十人完遂
見立て殺人はミステリの
一つのテーマともなっています。
本作品に刺戟を受けた横溝正史も、
「獄門島」や「悪魔の手毬唄」で
見立て殺人を取り入れていますが、
それぞれ三人に止まっています。
それがクリスティは十人全員に適用し、
すべてを完遂させています。
もっとも横溝の場合は
殺害されるべき人物が
はじめから三人に限定され、
その動機も明確であるため
それ以上にはなり得ないのです。
十人全員に見立て殺人を施すためには
それなりの設定が必要であり、
本作品はその点において
他に類を見ないものなのです。
こんなことは
わざわざ私が書き出すまでもなく、
世界中のファンが
すでに感じていることなのでしょう。
クリスティの面白さにまたしても
打ちのめされてしまいました。
次は何を読もうか。
ハヤカワ文庫のクリスティは
自伝も含めて98冊に上ります。
まだ96冊も味わえる喜びで
いっぱいです。
※中古で
「清水俊二訳」を買ったのですが、
すでに新訳「青木久惠訳」が
出ていることを知り、
買い直した次第です。
前者で使用されている差別用語を、
後者は排した形になっています。
(2021.11.22)
〔クリスティの本はいかが〕

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