「とらえられたスクールバス」(眉村卓)

SFジュヴナイルの名作、胸がときめきます

「とらえられたスクールバス
          前編・中編・後編」
(眉村卓)角川文庫

学園のスクールバスは、
突然乗り込んできた
謎の少年によって、
時空を越え
過去の世界へと到達する。
少年は未来の
管理社会から逃げ出し、
戦国時代へ
向かおうとしていたのだ。
バスに乗っていた
信夫・真一・哲子、
そして教師・北は…。

はるか以前に絶版となっている
眉村卓の傑作SFジュヴナイルを
ようやく入手し、約40年ぶりに
再読することができました。
中学生がタイムマシンに乗って
過去を旅するという
ありがちな設定であるにもかかわらず、
40年前と同じように
胸をときめかせて読んでしまいました。

【主要登場人物】
山崎信夫・長谷川真一
…洋心学園高等部2年生。
早坂哲子
…洋心学園高等部1年生。
北勉
…洋心学園国語教師。
 武道にも優れている。
アギノ・ジロ
…未来から脱走してきた少年。
 スクールバスに装置を取り付け
 時間航行を可能にする。
石原泰三
…1940年の世界の大学教授。
 特高から狙われている。
平野兵助
…1600年の世界の侍。
 本能寺の変を妨げる。
クタジマ・トシト
…未来世界の時間管理局員。
 アギノを追う。
鳴門屋清右衛門
…1553年の世界の時間管理局員。
 信夫たちを助ける。
みね
…清右衛門の配下。信夫たちを助ける。

本作品の胸のときめくところ①
学校生活を持ち出して時間旅行

超ハイテク機械ではなく、
スクールバスがタイムマシン。
この設定が秀逸です。
そして乗り合わせていたのが
信夫・真一・哲子の三人の生徒。
多すぎず少なすぎず
男女比2:1という黄金比率。
そして心強い教師も引率(?)。
まるで学校生活をそのまま引きずって
時空間を越えていくのです。
「修学旅行は授業の延長だ」とは
よく言われるところですが、
「時間旅行も学校生活の延長」と
なっているからこそ、
胸がときめくのです。

本作品の胸のときめくところ②
時間管理局員という悪役の存在

ただのタイムトラベルではなく、
アギノ・ジロを拘束するために現れる
傍若無人な管理局員クタジマが
いい案配の存在感で
悪役となっています。
アギノは逃亡者。
従って強力な追跡者がいないと
ドラマが面白くならないのです。
行く先々にしつこいくらい現れる
この悪役の登場と、
力を合わせてその窮地を脱しようとする
少年たちの戦いに、
胸がときめくのです。

本作品の胸のときめくところ③
歴史改編に踏み込むスリリング

タイムトラベルものの多くは、
歴史が改編されないように、
紙一重のところで事なきを得るのが
常道です。
本作品はちがいます。
途中から同行した平野兵助が
こともあろうに本能寺の変に干渉し、
信長が死なない歴史の流れを
つくってしまうのです。
それをなんとか本流に近づけようと
冒険するのが
後半の読みどころとなっています。
矛盾が起きないように
丹念に説明が加えられるのは
まどろっこしく感じられるのですが、
それによってタイムトラベルの筋書きが
精巧なものになっているのです。
サイエンス・フィクションの面白さを
極限まで追求したその筋書きに、
胸がときめくのです。

欲を言えば、
紅一点の哲子が女の子らしい存在感を
発揮していたら
もっと胸がときめいていたのかも
しれません。
アギノと親しくなってはいくのですが
恋愛までは達していないのです。
なにせ行った先が
戦時下や戦国時代です。
女の子らしさを発揮できないのは
致し方ありません。

さて、本作品が書かれたのは1981年。
この作品の舞台の「現代」もおそらく
1981年と考えて良さそうです。
彼らが最初の時間航行で到着したのは
1947年。
34年間の跳躍です。
現実世界の「現在」は2022年。
41年というそれ以上の時間が、
本作品発表から
過ぎてしまっていたのです。
過去の作品を読むという行為自体が、
一つの疑似タイムトラベルなのかも
しれません。

※文庫本にして全3巻798ページ!
 でも一気に読めます。
 前編が1981年6月。
 私が中学校3年生のときでした。
 夏休みに
 貪り読んだ記憶があります。
 中編はその4ヶ月後の10月。
 受験勉強をおっぽり出して
 読んだ記憶があります。
 しかし後編が待てど暮らせど
 発売されず…、
 ようやく2年後の1983年7月に
 発刊されたときには
 私は高校2年生。
 待たされた分、
 感動もひとしおだったのも
 しっかり記憶しています。

※本作品は1986年の
 アニメ映画化にあわせて
 そのタイトルが
 「時空の旅人―Time stranger」と
 改変され、
 さらには1999年ハルキ文庫から
 復刊された折には
 「時空の旅人
  ―とらえられたスクールバス」と
 変更されています。

※SFジュヴナイルが
 過去のものとなった今、
 本作品の復刊はあり得ないのだと
 思うのですが…、
 全1巻の単行本として復活したら
 すぐ購入したいと思っています。
 いや、それ以上に
 眉村卓SFジュヴナイル全集が
 刊行されようものなら、
 全巻即時予約したいと考えています。

(2022.4.1)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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