「カプリ島の婚禮」(ハイゼ)

カプリ島の女性はそのようなものだ

「カプリ島の婚禮」(ハイゼ/関泰祐訳)
(「片意地娘 他三篇」)岩波文庫

カプリ島に向かう舟に
乗り込んだ「私」が知り合った
絵描きの青年は、
島で婚約した娘を
母に引き合わせるのだという。
島に到着した
「私」が参加した結婚式に
突然現れたのは、
その絵描きの青年だった。
花嫁は、
彼の婚約者だという…。

絵描きの青年の名はレオポルト。
彼はカプリ島の美しい娘・
アンジョリーナと婚約し、
母親に引き合わせようと
島を離れたのです。
そこに現れたのが
リオデジャネイロで大成功し、
大金持ちになった島出身の男・
アリスティーデだったのです。
彼は島に帰ったその日のうちに
アンジョリーナを射止め、
そして数日後、
ブラジルへと帰還するのです。
レオポルトの乱入した、
アリスティーデとアンジョリーナの
結婚式はどうなるのか?

何も事件は起きません。
「私」がレオポルトをなだめすかし、
アンジョリーナのことを
諦めさせるのです。
「しっかりしなさい、親友。
 そして翻弄されても
 いい顔が出来るぐらいの
 分別を持つようになさい。
 あの人はあなたを
 不幸にしたでしょう。
 あなたはそんな不幸に
 出あってはならない人です」

日本人的な感覚からすれば、
レオポルトは誠実な青年であり、
アンジョリーナは尻軽女であり、
そんな女と結婚しても
幸せはつかめないという構図が
見えてきます。
「私」もレオポルトに対して
それに近い慰め方をしています。
しかし「私」はアンジョリーナを
決して貶めてはいません。
そして作者はアンジョリーナを
悪い女として描いてはいないのです。
「カプリ島の女性はそのようなものだ」と
言っているのに過ぎないのです。
それは賞賛でない代わりに
侮蔑でもなく、ただ単に事実として
受け止めているかのようです。

さて、作者・ハイゼ
ドイツの作家なのですが、
イタリアに取材したものに
世評の高い作品が多く、
以前取り上げた「片意地娘」も、
そして本作品も、
そうした情熱的なイタリア娘を描いた
作品となります。
ドイツ人ハイゼの見たイタリア娘とは、
ラウレラやアンジョリーナの
ようだったのでしょう。

舞台となったカプリ島は
湾を挟んでナポリの町の対岸に位置する
観光名所の島。
コロナ禍にあって
入島制限をするのではなく、
住民には強くワクチン接種を奨励し、
無料のPCR検査の実施、
飲食店などでの対人距離確保といった
対策を次々と講じて
観光客誘致を継続した、
世界でも希なポジティヴ思考の島民性
(イタリアの国民性?)です。
いい悪いは別として、
そういう施策をとったのです。
本作品における女性観も
それに似たようなところが
あるような気がします。

ハイゼは何とドイツ人初の
ノーベル文学賞受賞者です。
残念なことに日本では
ほとんど注目されておらず、
いくつかの翻訳も
ほぼすべて絶版状態です。
本書も1953年第1刷、
1988年第19刷復刻の
カバーなしの岩波文庫です。
旧字体で読みにくさ
この上なしなのですが、
貴重な一冊となっています。
再評価されるべき作家の一人です。

(2022.6.20)

Bilal EL-DaouによるPixabayからの画像

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