十代の壊れやすい心に、丁寧に寄り添う本
「答えは本の中に隠れている」
(岩波ジュニア新書編集部 編)
岩波ジュニア新書
本と人と言葉とのかかわりが深い
十二人の方々に、
十代の悩みに沿ってオススメ本を
紹介してもらいました。
あなたの悩みに
瞬時に効くアドバイスが
書いてある本もあれば、
あとから効いてくる作品や言葉も
あるかも知れません…。
本書「はじめに」からの抜粋です。
悩み多き十代
(おそらくは中高生を想定)の心に、
本を寄り添わせようという
アイディアで編まれた一冊なのです。
十代の悩みは人に打ち明けにくいものが
多いはずです。
また、一人一人の悩みは
表面的には似ていても、
一つとして同じものなどなく、
的確なアドバイスは
なかなか難しいのが現実です。
そこで「本」の登場というわけです。
【本書の章立て一覧】
序章 読書コト始め 梅棹学
1章 生きることを楽しみたいとき
◆「ふつう」を楽しむ 山崎ナオコーラ
◆こじらせ女子を楽しむ方法
トミヤマユキコ
◆正しいHの教科書 高橋幸子
◆部活,その鮮やかな記憶 高原史朗
2章 ネガティブ思考に陥ったとき
◆思春期の憂鬱 金子由美子
◆月曜日の朝にお腹が痛くなったら
木下通子
◆友だちのつくりかた 山本宏樹
3章 将来を考え始めたとき
◆もし、あなたのバイト先が
「ブラックバイト」だったら 菅間正道
◆地方で生きるor東京で生きる
阿部真大
◆意識高い系ですが、何か?
打越さく良
終章 本はともだち 夏川草介
セレクトブックリスト
※詳しくはこちらから(岩波書店HP)
どの執筆者も、
決して「ああしろ、こうしろ」と、
上から指図をするような、
「昔の大人」的対応を取っていません。
十代の壊れやすい心に、
丁寧に寄り添おうとする姿勢が
鮮明です。その上で、
特に読むべきは高橋幸子氏の
「正しいHの教科書」でしょうか。
性教育の必要性が
叫ばれてはいるのですが、
学校の「保健」の授業だけでは
心許ない現状です
(一つは時数が限定的、
一つは保護者の反応を考えると
当たり障りのない内容に
ならざるを得ない)。
専門医を招いての指導が
効果的なのですが、
医師側の「伝える技術」が
十分でないために、
子どもにしっかり伝わらない
「性教育講座」をいくつも見てきました。
その点、
本書のような「本」の形であれば、
手に取って何度も十分に読み味わい、
理解することが可能です。
そして2章に登場する
金子由美子氏、木下通子氏、
山本宏樹氏の三人については、
すべての中学生に読んでほしいと思う
内容です。
思春期特有の漠然とした悩み、
親との関係構築の失敗、
不登校・保健室登校問題、
過度の「孤独恐怖症」、
すべて昨今の中学生の多くが直面する
問題です。
金子氏、木下氏は、
同じ岩波ジュニア新書から
単独の著作も出ていて、
そちらも中高生に
強く薦めたい内容です。
合わせていかがでしょうか。
3章の菅間正道氏のテーマは、
中高生だけでなく、
大人の私たちにも必要な知見や助言に
満ちています。
恥ずかしながら、私も
「賃金計算は
一分単位で行われる」ということを、
初めて知りました(というよりも
教員の働き方がいかに「ブラック」か、
再確認してしまいました)。
もちろん読書案内としての機能も
十分です。
十代の子どもたちを対象とした
オススメ本が
盛りだくさんに紹介されています。
また、それらは
巻末にブックリストとして
再掲されているため、
活用しやすいものとなっています。
この本を多くの中高生に読んでほしいと
思ってはいるのですが…、
子どもたちが自分のお小遣いをはたいて
こうした本
(岩波ジュニア新書をはじめとする、
小説ではない新書本スタイルの本)を
買うとは思えません。
だとすると学校図書館に
置かれるべき、ということになります。
※なお、すくなくとも私がここ十年で
勤務した三つの中学校の図書室には、
岩波ジュニア新書は
一冊も置かれていませんでした。
学校司書が常駐せず
(もしくは配置されず)、
司書教諭も発令されず
(発令されても図書委員会担当では
なかったりする)、
そうした学校が多い現状では
致し方ないのかも知れませんが。
(2022.8.2)
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