「遺伝子とは何か?」(中屋敷均)

遺伝子とは何か、一から考えてみよう

「遺伝子とは何か?」(中屋敷均)
 講談社ブルーバックス

さらに詳細な情報が
増えていった結果、今度は逆に、
誰にも明確に
わからなくなってしまった。
本書はそういった「混迷の現状」に
たどり着くまでの
歴史的な経緯を振り返り、
「遺伝子とは何か」
一から考えてみようという
試みである…。

「遺伝子の本体は、DNAという、
染色体にふくまれる物質である」。
現在の中学校3年生の
教科書の一文です。
「遺伝子」という言葉が中学校の教科書に
載るようになって30年、
遺伝子=DNAという解釈が
広く一般的になりました。
そして今年3月、
米国立ヒトゲノム研究所などの
国際チームによって、
人の遺伝情報「ヒトゲノム」が
完全な形で解読されたという
論文が発表され、
「遺伝子については
ほぼ解明されたもの」という
印象を持っていました。
実はそうではなく、
「遺伝子」はますます
謎に満ちたものになっているという
ショッキングな事実を、
本書は解き明かしています。

今日のオススメ!

【本書の章立て一覧】
まえがき
序章 遺伝学前史
第一章 遺伝学の夜明け
第二章 「遺伝子」の誕生
第三章 「遺伝子」の「正体」
第四章 解き明かされた「生命の秘密」
第五章 新たな混乱の始まり
第六章 RNAが開く新時代
第七章 DNAを超えた遺伝子
第八章 遺伝子とは何か
終章 遺伝子に関する一考察
あとがき
参考文献・さくいん
※詳しくはこちらから
こちらも参考になるかと思います
 (ともに講談社ブルーバックスHP)

本書における「科学を読む楽しみ」①
遺伝子に関わる科学史を知る

本書序章ではいきなり
ヒポクラテスやアリストテレスが、
そして第一章では教科書で有名な
メンデルが登場します。
「えっ、遺伝子の最新の知見を
語るんじゃないの?」と、
もしかしたら本の選択を間違えたような
嫌な予感が走りました。
しかしそうではありません。
全体を読み終えると、
確かにここから始めなければ
ならなかったのだと合点がいきます。
科学者によって、
遺伝の仕組みがどのように解明され、
遺伝子の概念がどう変化したか、
その科学史を知らなければ、
現在の遺伝子研究の最先端部分の「謎」が
明確にならないのです。
本書は科学史を味わう愉しさを
読み手に提供しているのです。

本書における「科学を読む楽しみ」②
遺伝子にまつわる醜聞を知る

「科学者」というと、
「真理を追究する人」
=「間違った行いをしない偉い人」という
イメージがどことなくあります
(私が理科教師だからかも
知れませんが)。
ところが本書には、
遺伝子そのものの知見だけではなく、
DNA発見における科学者たちの
不適切な姿勢についても
明らかにしています。
(すでにいくつかの自然科学新書本でも
見かけましたが)
DNAの二重らせん構造を発見した
ワトソンとクリックが、
他の科学者の解析結果を
「データ盗用」していた問題です。
倫理に反する方法で他者の
未発表データとその解釈を入手し、
それをもとに自らの仮説を
立証した経緯を、
著者は余すところなく記しています。
スキャンダルといえば
スキャンダルなのですが、
なんともいえない人間くささを
感じてしまうのも確かです。
本書は科学の裏側をのぞき見る愉しさを
読み手に提供しているのです。

本書における「科学を読む楽しみ」③
科学の考え方や在り方を知る

そうした科学史や醜聞といった
科学の周辺を取り上げることによって、
本書は単なる自然科学の入門書を離れ、
科学の考え方や在り方を学ぶための
教科書としての機能を果たしています。
後書きに書かれた著者の言葉に
感銘を受けました。
「今から思えば、奇異に思える説も、
 「間違いだ」と頭から
 否定されるべきものではなく、
 その当時の真摯な思索の結果、
 生み出されたものである。
 そして、そういった誤りを含んだ
 真摯な努力を
 後世にきちんと伝えることは、
 これから先の未来に現れる
 新たな謎に向き合う際にも
 きっと役立つものだと思う」

高校生に薦めたい一冊です。
後半になるにつれて、
必然的に難しい用語が
数多く現れますが、
それを読み飛ばして大意を把握できる
読書力があれば大丈夫です。
十代の新鮮な感性で、
科学の考え方や在り方を
自分の血肉としてほしいと考えます。

〔生物学に関する新書本〕
もっと優しいDNAの本としては
岩波ジュニア新書のその名もずばり
「DNAがわかる本」があげられます。
お薦めです。

細胞については同じ岩波ジュニア新書の
「細胞のはたらきがわかる本」
お薦めです。

内容はやや難しくなるのですが、
「細胞発見物語」
楽しく読める一冊です。

(2022.8.9)

Pete LinforthによるPixabayからの画像

【関連記事:ブルーバックス】

【ブルーバックスはいかが】

created by Rinker
¥1,100 (2024/05/18 09:39:05時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥1,760 (2024/05/18 19:57:26時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥1,430 (2024/05/18 19:57:26時点 Amazon調べ-詳細)

【今日のさらにお薦め3作品】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA