「台湾の歴史と文化」(大東和重)

文学と文化から台湾に接近する、その手法

「台湾の歴史と文化」(大東和重)
 中公新書

一九八〇年代に至り、
この地に生を受けた人々が、
この地の主役となる時代が
ようやく訪れた。
流された血と涙、
はかり知れない勇気と
知恵があって、
台湾に住む人々を「台湾人」と
呼ぶことのできる時代が、
ようやく来たのである…。

先日の米下院議長の台湾訪問で、
中国による激しい「軍事演習」が
世界の緊張を高めています。
2月のロシアによる
ウクライナ侵攻も、
はじめは「軍事演習」でした。
またもや!と、
きな臭い匂いのつきない国際社会に
深い憂慮を覚える昨今です。
別に私のような一般市民が
憂慮を覚えても、
何も変化はないのでしょうが、
できることはただ一つ、
「関心を持つこと」
「学ぶこと」「知ること」です。
知っているようで実は
ほとんど何も知らない隣国・台湾。
その歴史と、
中国との関係を理解したいと思い、
本書を読み始めた次第です。

【本書の章立て一覧】
はじめに
第一章 離島と山岳地帯
    台湾の先住民族
第二章 平地先住民族の失われた声
    平埔族とオランダ統治
第三章 台湾海峡を渡って
    港町安平の盛衰と鄭成功
第四章 古都台南に残る伝統と信仰
    清朝文化の堆積
第五章 日本による植民地統治
    民族館の壁と共存
第六章 抑圧と抵抗 国民党の独裁と
    独立・民主化運動
終章 民主化の時代の台湾
あとがき
台湾史年表
付録 読書案内

台湾を知るための本書の魅力①
六つの時代に分けて解説

上に掲げた章立て一覧が、
そのまま本書の内容の
ダイジェストになっています。
台湾の歴史を
「先住民の時代」
「オランダ統治の時代」
「鄭政権時代」
「清朝時代」
「日本統治時代」
「戦後」と六つに分け、
見通しよく整理しています。
特に「原住民」まで遡って言及した本は
少ないようであり、この章の存在は
本書の価値を高めています。
台湾は、島外の人間が
原住民を押しのけて移住することから
はじまった国なのです。

台湾を知るための本書の魅力②
歴史書とは異なる切り口

したがって、本書の切り口は、
他の「歴史書」とは異なるところが
多いようです。
現在の台湾人が著すとすれば、
原住民のことは触れられずに
終わることでしょう
(日本の歴史の中にアイヌ民族が
全く登場しないのと同じように)。
現在の台湾の人口の多くが、かつての
「島外の人間」であることを考えると、
「台湾とは何か?」という問題に
突き当たります。
新たな視点から
問題提起を行っているともいえます。

台湾を知るための本書の魅力③
筆者独自の接近のしかた

さらに、日本の関わりが薄い
第一章から第四章についても、
当時台湾に関わった日本人や、
日本と関わって台湾の文化や
民族を研究した台湾人など、
「人」から歴史に接近している点が、
本書の特徴でしょう。
特に第三章では、
その時代に台湾に滞在し、作品を
書いた作家・佐藤春夫を登場させ、
その作品に触れることにより、
当時の台湾の文化と歴史的事象を
浮き上がらせることに成功しています。

※佐藤春夫の台湾小説については、
 当サイトでも何度か取り上げました。
 本書出版の半月後、
 同じ中央公論社から
 「佐藤春夫・台湾小説集」が
 刊行されています。

なぜこのような独特のアプローチが
可能だったのか?
それは筆者が歴史研究ではなく、
比較文学比較文化を
専門としているからと考えられます。
文学と文化から台湾に接近する、
その手法が独自の視点を
生み出しているのです。

最も知りたいと思った
中台関係については、
残念ながら十分な資料とは
なりませんでしたが、
それ以上の気づきと学びがありました。
「本を読む」というのは
こうした「あえて行う智の回り道」だと
感じています。

巻末の参考資料の頁も充実していて、
さらに学習を重ねるのに役立ちます。
さて、次は何を読もうか。

※本書巻末参考資料欄に
 多くの学術書が掲載されていますが、
 ちなみにその中から新書本を探すと
 このようなものが見つかります。

(2022.8.30)

Y. C. LOによるPixabayからの画像

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