「掟の前で」(カフカ)

何か私たちの社会にもたくさんありそう

「掟の前で」(カフカ/丘沢静也訳)
(「変身/掟の前で 他2編」)
 光文社古典新訳文庫

掟の前に門番が立っていた。
この門番のところに
田舎から男がやってきて、
掟のなかに入れてくれと頼んだ。
だが門番は言った。
まだ入れてやるわけには
いかんな。
男はじっと考えてから、
たずねた。
じゃ、後でなら
入れてもらえ…。

フランツ・カフカの超短編。
わずか3頁と3行(活字が大きく
行間の広い光文社古典新訳文庫で!)。
でありながら、やはりカフカ、
分かりません(ちなみに私はこの作品を
かれこれ100回以上読み返しています)。
いったい何を言いたいのか?
「掟」の中に入ることを望んだ男は、
何年も門前で待ったあげく、
やがて死を迎えます。
もちろん寓話に決まっています。
だとすると、「掟」は何の暗喩なのか?

本作品と似た味わいを持つのが、
カフカの大長編「城」です。
「城」から仕事を依頼された
測量士・Kが、雪深い国から
村の宿屋に到着したものの、
辿り着くべき道は見つからず、
「助手」や「使者」「村長」などを通じて
接触を試みても
「城」への接点を得ることができず、
困惑したまま
終幕を迎えるという作品です。
本作品は、この「城」における、
「城」を「掟」に、
「助手」「使者」「村長」を「門番」に
置き換えて、その骨子だけを
抽出したかのようにも感じられます。

本作品もやはり、
多くの研究者がその謎解きに挑戦し、
いくつもの論文を発表しています。
ということは、明確な答えなど
ないということでしょう。
例によって、
読んだ人の数だけ答えがあるはずです。

今日のオススメ!

興味深いのは、
「掟」には「門」があることです。
壁の一部に開閉可能な「門」がある、
つまり「掟」は
外界へと通じているのです。
しかしながら「門番」が存在し、
その「門」を男が通過することは
不可能な状態なのです。
「通じている」のは見せかけだけで、
実際は「閉じられている」のです。
こう考えてくると、
何か私たちの社会にも
たくさんありそうな気がしてきます。

さて、なぜこのような作品を
取り上げたかというと、
私自身が似た経験を
現在進行形で体験しているからです。
税金の扶養控除の手続きです。
この春、次男が大学を
卒業したのはいいのですが、
就職せず、プータローです。
親元を離れたまま
生活しているのですが、そうしたら
手続きがいきなり煩雑化しました。
「昨年一年間の仕送りの額を
申告せよ」というので、申告しました。
そうしたら「通帳のコピーを
添付せよ」というので、添付しました
(かなりプライバシーを
侵害されているのですが)。
そうしたら「その金額を
受け取ったという領収書を
提示せよ」というので、
1年間約20回にわたった
仕送りの領収書を次男に書かせ、
それを郵送してもらい、
提出したところです
(子どもが親に領収書を発行することが
一般的であると
役場は考えているようです)。
何度も何度も跳ね返される、
「通じている」ように見えて
「閉じられている」、
行政機関には
様々な「門番」が控えていて、
容易に侵入を許しません
(これは扶養控除だけでなく、
障碍を担っている長男の
障害者年金や車椅子等の補助でも
同様でした)。

作品中の「男」のように、
ただ「門番」を観察しているだけでなく、
いろいろなアプローチを々行い、
こじ開けようとする努力が
必要なのだと感じています。
今日は作品紹介というよりも、
私の愚痴こぼしになってしまいました。
お許しください。
作品は深遠で魅力に溢れています。
ぜひご賞味ください。

〔カフカの作品世界〕
カフカといえば不条理、
不条理といえば「変身」
というわけで、
最も有名なのは「変身」です。
現在では新訳がいくつか登場し、
充実してきました。

created by Rinker
新潮社
¥506 (2024/06/18 08:26:11時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥495 (2024/06/18 08:26:12時点 Amazon調べ-詳細)

短篇では「断食芸人」や「流刑地にて」が
秀逸です。

まとまった短編集として
ちくま文庫から全3巻で
「カフカ・セレクション」が
出版されていますが、
かなり前から絶版中です。
復刊を切に願っています。

長篇作品も魅力的です。
上に記した「城」のほかにも
カフカには「アメリカ」「審判」の
2つの長篇があります。

created by Rinker
¥495 (2024/06/18 08:26:09時点 Amazon調べ-詳細)

(2022.9.7)

Lothar DieterichによるPixabayからの画像

【青空文庫】
※別の訳者・別の邦題で
 掲載されています。
「道理の前で」(カフカ/大久保ゆう訳)

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥748 (2024/06/18 10:39:40時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA