「ボロ家の春秋」(梅崎春生)

他人からいいようにやられている残念な二人

「ボロ家の春秋」(梅崎春生)
(「ボロ家の春秋」)中公文庫

「僕」は野呂という男と
同居しているが、
世間一般でいうところの
「同居」とは大きく違う。
そもそも住んでいるボロ家が
「僕」の所有物なのか、
野呂のものか、
第三者のものなのか、
よくわからない。
こんな複雑な状況になった
顛末は…。

面白い小説に出会いました。
どこを読んでも笑えます。
「僕」も野呂も
どこまでも間抜けで
どこまでもお人好しで
どこまでも器の小さい人間だからです。

【主要登場人物】
「僕」
…語り手。訳あって野呂と一緒に
 ボロ家に住み続ける。
不破数馬
…ボロ家の一間を「僕」に貸したきり、
 行方をくらます。
野呂旅人
…不破からボロ家を
 買い取った(つもり)。
陳根頑
…台湾人。中華飯店経営。
 借金の形にボロ家を差し押さえ、
 二人を騙して借家契約させる。
孫伍風
…陳の雇い人。少林寺拳法の達人。
固定資産税徴収員
…ボロ家差し押さえの
 便宜を図ると持ち掛け、
 「僕」から五千円巻き上げる。

created by Rinker
¥970 (2024/06/01 23:15:45時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

面白さを醸し出す、騙される二人①
まず、不破から騙される

電車で知り合った不破という男の家は、
掘っ建て小屋並のボロ家なのです。
権利金を受け取って10日後には
不破はドロン。
後から現れた野呂も
不破に前金4万円払って家屋の権利を
譲り受けたというのですが、
もちろん登記は未変更のまま。
二人とも不破にだまされたのです。

面白さを醸し出す、騙される二人②
続いて、陳に騙される

数日後、ボロ家に現れたのは、
刑事とともにやってきた台湾人の陳。
彼も不破に18万円を踏み倒された
被害者だったのですが、こちらは
ただ者ではありませんでした。
「僕」と野呂を自分の経営する
中華料理屋でごちそうし、
酔っ払ったところを見計らって、
家の差し押さえと家賃の支払いに
同意する証書に拇印を押させるのです。
二人とも今度は
陳からも騙されたのです。

面白さを醸し出す、騙される二人③
さらに、地権者から狙われる

さらにその後、二人で5万円ずつ用意し、
陳から権利書を
買い取ったまではいいのですが、
土地は別に地権者がいます。
ボロ家が崩れれば
二人は立ち退くしかなく、地権者は
土地を高く売ることができます。
家を補修すればいいのですが、
二人は仲違いしているために
進みません。二人とも
地権者からも狙われているのです。

他人からいいようにやられている
残念な二人。
であれば二人で協力して困難を
乗り越えればよさそうなのですが、
両者とも人間が小さいので、
お互いに揚げ足取りをしている
状態なのです。
野呂は「僕」を追い出そうと小さな
嫌がらせを次々に仕掛けてきます。
そうはさせまじと
「僕」も反撃を繰り返します。
そのやりとりが妙に面白いのです。

それでいて二人とも実に
生き生きとして生活しているのです。
自分の住んでいる家の権利が
いつ奪われるかわからない
状況でありながら、
決して暗くなっていません。
何とか相手を
出し抜いてやろうという一念が、
彼らの原動力となっているのです。

戦後の混乱期特有のドタバタの中で、
ある意味、たくましく
生き抜いているといっていいでしょう。
現代の若者に不足しているといわれる
「生きる力」とは、もしかしたら
こういうのを言うのかも知れません。

〔本書収録作品一覧〕
黒い花
零子
拐帯者
猫と蟻と犬
ボロ家の春秋
私の小説作法
私の創作体験
わが小説
私の小説作法

〔梅崎春生の作品〕
これまでアンソロジーで
出会ってきましたが、
すべて飄々とした面白さがあります。

created by Rinker
¥217 (2024/06/02 07:44:30時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

〔梅崎春生の本〕
本書・中公文庫から
「カロや-愛猫作品集」「怠惰の美徳」が
出版されています。

講談社文芸文庫からも
「悪酒の時代/猫のことなど」
「狂い凧」「桜島・日の果て・幻化」などが
刊行されています。

(2022.9.26)

S. Hermann & F. RichterによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「ボロ家の春秋」(梅崎春生)

【今日のさらにお薦め3作品】

【最近の中公文庫の素敵な一冊】

created by Rinker
¥950 (2024/06/01 23:15:44時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA