「審判」(カフカ)

理解できるのは、Kも混乱しているということ

「審判」(カフカ/本野亨一訳)角川文庫

ある朝、
自室で突然逮捕されたK。
逮捕の理由は?
罪状は?
一切が不明のまま、
第一回の審理は始まる。
しかしそこでも
何も明らかにはならない。
そもそも古アパートの
屋根裏部屋であるここは
裁判所なのか?
謎が渦巻く中、Kは…。

わかりません。
やはりわかりません。
カフカの作品は、
何を表しているのか、
何を言いたいのか、
さっぱりわかりません。
ただ一つ、理解できるのは、
Kもまた
混乱しているということだけです。

【主要登場人物】
ヨーゼフ・K
…銀行員(業務主任)。アパートに住む。
 独身。ある朝突然「逮捕」される。
フラウ・グルバハ
…Kの家主の老婦人。
ビュルストナー
…Kの隣室の女性。
主任・見張り
…Kに逮捕の手続きを行った三人。
 見張り二人の名前は
 フランツとヴィレム。
ラァベンシュタイナー
クウリヒカミィナァ
…Kの監視をする三人。
 Kの勤める銀行の傭員。
アルバート・カアル
…Kの叔父。
 Kの逮捕を知り、弁護士を紹介する。
フルド
…弁護士。Kの弁護を担当するが、
 手続きは進展しない。
レェニ
…フルドの住み込み看護婦兼女中。
ブロック
…商人。フルドに弁護を依頼している。
ティトレリ
…法廷画家。Kの支援を約束。
僧侶
…Kに「掟の前」を説話する。

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本作品における主人公Kの混乱①
降りかかる災難を理解していないK

作品前半部分では、
突然降りかかった正体不明の災難に、
どう対処すべきか判断できない
Kの困惑ぶりが顕著です。
当然です。
突然の逮捕。
罪状不明。
身柄は拘束されず、
軟禁もでもなく、
ただ緩やかな監視がつく。
しかし当局は決して
Kへの訴追の手を緩めず、
不条理な展開は
やがて第一回公判へとつながります。

本作品における主人公Kの混乱②
感情と行動が首尾一貫していないK

他のカフカ作品と異なるのは、
主人公もまた
理解不能な行動をすることです。
グルバハとの関係改善を図るための
対話の途中で腹を立てる。
迷惑をかけたビュルストナーに謝罪を
行っていたはずがつむじを曲げる。
叔父とともに弁護を依頼しに行った先で
レェニと情事にふける。
Kを取り巻く環境や押し寄せる事象も
不条理を極めているのですが、
K自身の言動もまた
常軌を逸しています。

本作品における主人公Kの混乱③
正体不明の不安に押しつぶされるK

本来なら、罪状を確認し、
不当逮捕であるゆえを
明らかにしていくのが
無罪である者の行動であるはずです。
Kがそれを行うのは前半部だけであり、
なぜか途中から
そうした行為を諦めます。
最後には、
有罪判決が出されるかも知れないという
恐怖だけが、彼の思考を
覆っていくことになるのです。

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この主人公Kの混乱ぶりこそが、
本作品の読みどころなのではないかと
思います。
訳者の本野亨一氏は、
巻末解説において
一つの示唆を提示しています。
作者・カフカ自身につきまとっていた
「漠然たる不安」についてです。
「襲って来る
 この漠然たるものの姿を、
 いろいろに書いているのであるが、
 ある姿が机に向かってうつむいて
 坐っていることもある。
 カフカはその者のまわりを
 ぐるぐるまわって歩き、この者に、
 首を締めつけられていると思う」

さて、本作品は
特殊な成立過程を経ています。
未完成作品なのですが、
「途中から切れている」のではなく、
「途中が切れている」のです。
カフカはまず冒頭の「逮捕」の章、
そして終章「結末」を
ほぼ同時に書き上げています。
全体の三分の二ほどを
書き上げたところで行き詰まり、
最終的には未完のまま放置された
作品なのです(数章に欠損あり、
また「結末」以降に
断章五篇が収録されている)。
理不尽な逮捕と不条理な絶命だけは
明確に描かれ、
それに至る過程が未完なのです。
カフカ自身にさえ、
その「襲って来る漠然たるものの姿」を、
筆で表すことが
不可能だったのかも知れません。

カフカ作品について絶対普遍の正解を
探すのは野暮というものでしょう。
作品の表しているものの正体を、
読み手の一人一人が自らに置き換え、
自身の解答を
提示していかなくてはならないのです。
カフカを読むのは、
だから難しいのであり、
だから面白いのです。

〔第九章に書かれた「掟の前」について〕
この「掟の前」の寓話だけが取り出され、
一つの短篇作品として
発表されています。
作中で、
カフカ自身が僧侶の口を借りて
解説しているのが
本作品「審判」の
読みどころの一つとなっています。

〔カフカ作品について〕
やはり代表作「変身」は、
一度は読んでおきたい傑作です。
近年新訳も登場し、
面白さが増しています。

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同じ未完成長篇作品である「城」も
読み応えがあります。
主人公にKという記号が
与えられている点も共通しています。

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裁判で有罪を言い渡される設定は、
短篇作品「判決」にも見られます。

文庫本も各種出版されています。

まだまだ
カフカの世界は広がっています。
読み次第、取り上げていきます。

(2022.10.17)

Ulrich B.によるPixabayからの画像

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