「幽霊」(黒岩涙香)

明治翻案スタイル、十分に味わいましょう。

「幽霊」(黒岩涙香)
(「黒岩涙香探偵小説選Ⅱ」)論創社

「黒岩涙香探偵小説選Ⅱ」論創社

先妻・お塩が
生きていることを隠して
お年を後添えに貰った
夏雄だったが、
罪の呵責からか、
次第に痩せ細っていく。
お塩の帰郷で
それは一層ひどくなり、
ついに夏雄は落命する。
しかし数日後、
軽目田の家の周辺では、
幽霊が現れ…。

「幽霊塔」で有名な黒岩涙香
実はただの「幽霊」なる作品もあります。
こちらも海外作品の
翻案ものなのでしょう。
舞台はイギリスの片田舎なのですが、
登場人物はすべて日本名という、
当時の翻案探偵小説のスタイルです。

【主要登場人物】
竹生義成
…郷士。30歳。仕事のため仏国へ滞在。
竹生塩
…義成の妹。20歳。おとなしい娘。
 結婚後、米国で死亡と伝えられたが、
 生きて戻ってくる。
軽目田夏雄
…軽目田家の次男。お塩と結婚する。
 意気地なし。兄から貰った金を手に、
 お塩と米国へ旅立つ。
戸田平太郎
…戸長。夏雄・お塩夫婦のことを
 義成から託される。
根深祐友
…代言人。軽目田の身代を狙う。
根深年
…祐友の娘。夏雄の後妻に収まる。
根深銀
…祐友の娘。お年の妹。
軽目田夏年
…夏雄とお年の子。
お栗
…軽目田家の奉公人。老女。

本作品の味わいどころ①
明治翻案スタイルの味わい

初めて読む方は驚くと思います。
義成、お塩、平太郎とくれば、
日本のどこぞの辺鄙な村の
出来事と思うはずです。
ところが舞台はイギリス。
これは当時、カタカナ名では
読み手が困惑するということで
考えられた創作側の「配慮」なのです。
現代ではむしろ
違和感しかないのですが、
これが明治の翻案スタイルなのです。
それも「戸長」や「代言人」という
旧時代の行政上の用語も現れ、
世界観が絞りにくいのですが、
慣れてくればそれも愉しいものです。
十分に味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
日本人的勧善懲悪の味わい

裏はありません。
善人は善人らしく、
悪人は悪人らしく描かれ、
賢者は賢者らしく、
愚者は愚者らしく振る舞います。
そして何もせずとも
悪は天罰によって滅び、
善き者が最後には笑うのです。
おそらく原作(不明)が
存在するのでしょうが、
日本人好みに
大幅にアレンジしたのでしょう。
日本人的勧善懲悪の世界が
広がっています。
十分に味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
驚く仕掛けの数々の味わい

そうした単純な筋書きでありながらも、
読み手を驚かせる仕掛けが
いくつも潜んでいます。
死んだと思われていたお塩が
生きて帰ってきたのも驚きなら、
幽霊が「実在」したのも驚きです。
新聞掲載の小説でしたので、
毎回読者を引きつける必要が
あったからなのでしょう。
十分に味わいましょう。

現代に引き寄せて、
「あり得ない」だの
「リアリティに欠ける」などと
文句を言ってはいけないのです。
本作品は明治22年の作品です。
明治20年代の新聞の読者の
立場に立って本作品を、
いや涙香の全作品を、
十分に味わいましょう。

※「幽霊塔」がある以上、本作品の情報を
 ネット検索しようとしても
 なかなか見つかりません
 (「幽霊塔」の記事ばかりが出てくる)。
 この記事もあまり人目につくことなく
 埋もれてしまうのでしょう…。

〔本書収録作品一覧〕
幽霊
紳士の行ゑ
血の文字
父知らず
田舎医者
女探偵
帽子の痕
間違ひ
無実と無実
秘密の手帳
探偵談と疑獄譚と感動小説には
 判然たる区別あり
探偵譚について

(2022.12.27)

Sergey GricanovによるPixabayからの画像

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【今日のお知らせ2022.12.27】
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