「古事記物語」(鈴木三重吉)

「日本昔話」的に読むのが健全な受け止め方

「古事記物語」(鈴木三重吉)
 ハルキ文庫

「古事記物語」ハルキ文庫

世界ができたそもそものはじめ。
まず天と地とが
出来上がりますと、
それといっしょに
われわれ日本人の
いちばんご先祖の、天御中主神と
おっしゃる神さまが、
天の上の高天原というところへ
お生まれになりました。
そのつぎには…。

童話作家・鈴木三重吉
1920年に編み上げた、
子どもでもわかる物語風「古事記」、
つまり古典「古事記」の
翻案的現代語訳なのです。
わかりにくい「古事記」が、
かなりすっきり翻案され、
これなら子どもでも
よく理解できるでしょう。
いや、神々や天皇の
複雑な血縁関係を考えたとき、
本書はむしろ大人が読むべき
一冊なのかも知れません。
私も十分に面白く
読み通すことができました。
ただし疑問を感じてしまう部分も
いくつかあります。

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一つはこの本の立ち位置についてです。
「古事記」はもともと
神話や伝承を集めた
娯楽作品ではありません。
また単なる歴史書でもないのです。
天皇の統治の正当性を説明するために
編まれた、いわば
政治学の書なのだと考えます。
本作品は鈴木三重吉が
雑誌「赤い鳥」に掲載した
原稿をまとめたものであり、
そうした政治的色合いは
かなり薄まっているように感じます。
「古事記」原文を読んだことがない
私には正確な判断はできないのですが。

もう一つは、
どこまで表現するかという問題です。
子ども向けですから、
性的な描写(例のイザナキ・イザナミの
「まぐわり」など)をバッサリ
斬り捨てたのはやむを得ません。
それでいながら暴力的場面は
躊躇なく描出しているのは
どうしたことかと思ってしまいます。
単に刀剣で斬り捨殺しただけでなく、
身体を切り刻んだことまで書いている
場面もあります。
なぜそこまで書かなければ
ならなかったのか?
理解に苦しみます。

以上の二つは、作者・鈴木三重吉の
執筆の考え方に関わる部分です。
最後の一つは本書ハルキ文庫版の
編集者の姿勢に関わることです。

あろうことか「朝鮮征伐」が
カットされているのです。
近年の日韓関係の悪化を
考慮したものと考えられるのですが、
作品の一部を割愛することは
作者や作品に対する冒涜であるとともに
読み手に対する不敬であると考えます。
100年以上も前に書かれた
文学作品に対して、
このような処置をする必要が
あったのでしょうか。

※ちなみに「朝鮮征伐」は
 「青空文庫」で読むことができます。

いろいろ並べてしまいましたが、
久方ぶりの復刊は喜ばしいかぎりです。
あまり難しいことを考えずに、
「日本昔話」的に読むのが
健全な受け止め方なのかも知れません。
中学生にお薦めします。
古典に親しむための一冊として。

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(2023.1.9)

KanenoriによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「古事記物語」(鈴木三重吉)

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