自然科学と日常をつなぐ、心が｢ときめく｣図鑑
「ときめく微生物図鑑」山と渓谷社
見ることが難しいので
気づくことは
ほとんどありませんが、
微生物は
世界のどこにでもいます。
世の中は
微生物が活動することで、
互いにつながり、
機能しています。
微生物を知ることは、
この世のパラレルワールドを
知ることです。
微生物が好きで、
顕微鏡をのぞくのが好きです。
何分にも理科教師ですから。
でも、四六時中顕微鏡を
のぞける訳ではありません。
自前の顕微鏡も
勤務先に持参していますので、
のぞけるのは勤務時間中、
しかも教材準備のとき、
つまり年に数回だけしか
できないでいるのです。
だからかわりに図鑑を眺めるのが
好きになってしまいました。
微生物図鑑は
いろいろなものが出版されています。
かつては｢いかにも図鑑｣というもの
ばかりでしたが、近年は
｢読んで楽しい図鑑｣が
出回るようになりました。
本書はそうしたものの一冊です。
〔本書の構成〕
はじめに
1 微生物の記憶
2 プランクトン図鑑
3 もっと！微生物
4 世界をつなぐ微生物
5 ワンダフル微生物ライフ
おわりに･ふろく･さくひん
読んで楽しい本書の特徴①
必要な知識を広く浅くつながりをつけて
｢図鑑｣という
名前がついているのですが、
図鑑部分は全体の約6割。
残りの4割は
読み物となっているのです。
これがなかなかに役立つ内容です。
第1章では、微生物について
パスツールが行った実験から始まり、
顕微鏡作成法、
日本初の顕微鏡、
生命発生の仏教上の解釈、
微生物宇宙飛来説等々、
深く掘り下げるのではなく、
広くつながりをつける形で
構成されています。
中高生や一般の方向けに、
専門知識というよりも、
その人が今必要とするであろう知識を
次から次へと提示しています。
読んで楽しい本書の特徴②
ハンドブックとしてではなく｢読む図鑑｣
その約6割の図鑑部分ですが、
細かな写真がびっしり、と
いうものではありません。
必要な画像を、ゆとりある配置で、
ちょっとした美術館のように
センス良く並べています。
その隙間に置かれた解説部分も、
学術的な小難しいことはさておいて、
読み手の興味関心を高めるような
話題が中心になっているのです。
つまり、
顕微鏡観察のハンドブック的な
使い方のためのものというよりも、
頁をめくって楽しむ
｢読む図鑑｣となっているのです。
読んで楽しい本書の特徴③
自然科学と日常をつなぐ
全篇に共通しているのは、
｢自然科学と日常をつなぐ｣という
編集姿勢です。
だから難しいところは
ほとんどありません。
日常と関わる内容が多く、
気軽に読むことができて、
しかもためになる、素敵な一冊です。
例えば第1章では、
｢音楽を巡る微生物のお話｣として、
日本伝統食品の生産現場で行われている
音楽による微生物の活動促進、
それによる品質向上の事例が
紹介されています。
第4章では｢微生物食品のいろいろ｣と
題して、バクテリア食品、菌類食品、
そのほかのカビによる食品と、
知っているようで知らなかった情報が
わかりやすく紹介されています。
第5章では｢微生物アート｣として、
｢微生物をデザインした切り絵｣や
｢変形菌グッズ｣、
｢プランクトン･オブジェ｣などが
紹介されています。
誰もが手に取って読みたくなるような
構成となっているのです。
純粋に自然科学を学びたいという方には
不向きですが、
｢微生物の世界を知りたい｣と考える
すべての人にお薦めできます。
その名の通り心が｢ときめく｣
微生物図鑑です。
騙されたと思ってぜひご一読を。
（2023.2.7）
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