「少子社会日本」(山田昌弘)

失われた10年、いや少子化対策の失われた30年

「少子社会日本」(山田昌弘)岩波新書

「少子社会日本」岩波新書

経済に関しては、
失われた一〇年といっても、
回復は可能である。
しかし人口は違う。
人間は生き物である。
団塊ジュニア世代を
若返らせることはできない。
もう日本は、少子化、人口減少に
つき合って進むしか
道はなくなっている…。

少子化対策が
待ったなしになっています。と
いいたいところですが、
そうではないのです。
「待ったなし」の状態だったのは
1990年代であり、
それから30年近くたった今は、
人口が回復することは
ほぼ不可能であり、
日本は少子化社会を
受け入れざるをえない状態に
陥っているということが
よくわかる一冊です。
本書の出版は16年前の2007年。
今改めて読み返しても、
「なるほど」と納得させられる記述が
随所に見られます。

〔本書の内容〕
序章 少子社会日本の幕開け
第1章 日本の少子化は、いま
第2章 家族の理想と現実
第3章 少子化の原因を探るにあたって
第4章 生活期待と収入の見通し
第5章 少子化はなぜ始まったのか
第6章 少子化はなぜ深刻化したのか
第7章 恋愛結婚の消長
第8章 少子化対策は可能か
あとがき・参考文献一覧

少子化対策の難しさは、その
実態把握の難しさにあるのでしょう。
著者は、必要な対策を考えるために、
実態の正確な把握に努めています。
それが本書の読みどころとなっていて、
「そうだったのか」と
思わず呟いてしまうような指摘が
随所に見られます。

「少子化の要因」を考える上で
問題となるのは、誰でも語れるが故の
「事実誤認」ということなのでしょう。
筆者も序章で述べています。
「家族、結婚や子育てが
 かかわる領域は、身近なせいか、
 研究者としてのトレーニングを
 受けていない「しろうと」でも
 発言できる。
 しかし、多くは、
 自分が見聞きする範囲で得た
 知見の一般化である」

少子化を論じるためには、
数多くのデータと事例を分析し、
深い考察を行う必要があるのです。

「少子化」に対する本書の鋭い指摘①
「女性の社会進出が原因」は間違い

一般に言われる、
女性が社会に進出することによって、
晩婚化や産み控えが起きたという
俗説を、筆者は一蹴します。
女性は結婚したいと願っているし、
子どもを産みたいとも思っているが、
それができない状況が
横たわっていることを解き明かします。

「少子化」に対する本書の鋭い指摘②
根底にあるのは若者の経済格差

その原因は、
若者の経済格差であることを、
次に説いています。
特に、非正規雇用が増え、
結婚はおろか、
自分一人が食っていくだけで
精一杯である若年層の増加が、
結婚を断念させている主因であると
述べているのです。
将来豊かになれる希望の消失、
子どもに対して
自分以上の環境を与えてあげたいという
無意識の願望、
パラサイトシングルの増加、
そうした要因が絡み合って、
日本では少子化が進行し、
深刻化しているのです。

「少子化」に対する本書の鋭い指摘③
希望格差対策としての少子化対策

それに対して、筆者は現状打破の
処方箋もしっかりと示しています。
その概要は以下の通りです。
①全若者が安定収入を得て
 希望ある将来を
 持てるようにするための政策
②どんな経済状況の親の元に生まれても
 一定水準の教育が受けられる保証
③格差社会に対応した
 男女共同参画の実現
④若者にコミュニケーション力をつける
 機会の供与
これだけでは
わかりにくいところがあるのですが、
詳しくはぜひ
本書を読んで確かめてください。

さて、冒頭に掲げたのは、
2007年出版の本書の、序章の抜粋です。
その一文の前には、
「日本の一九九〇年代は、少子化対策の
失われた一〇年といってよい」との
文言が置かれています。
今、本書の改訂版を出すとすれば、
「日本の一九九〇年~二〇二〇年は、
少子化対策の
失われた三〇年といってよい」と
しなければならないところでしょう。
我が国の少子化について、
本書のような、有効な分析と
提言があったにもかかわらず、
政治は何ら手を打ってはいないことが
よくわかります。
今年に入り、
首相が「異次元の少子化対策」と
豪語して出してきた政策は、
子育て支援策ばかりであり、
ピントがまったくはずれています。
首相も政府も自民党も、
「異次元的な」勘違いをしているとしか
いいようがありません。
みなさん、選挙には必ず行って、
きちんと投票しましょう。

〔山田昌弘氏の主要著書〕
「新型格差社会」
「日本の少子化対策は
  なぜ失敗したのか?」
「モテる構造 男と女の社会学」
「結婚不要社会」
「悩める日本人
  「人生案内」に見る現代社会の姿」

(2023.4.4)

康 复によるPixabayからの画像

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