「シューレス・ジョー」(キンセラ)

精巧な人間物語、現実感ある幻想、溢れ出る野球愛

「シューレス・ジョー」
(キンセラ/永井淳訳)文藝春秋

「シューレス・ジョー」文藝春秋

「きみがそれを作れば、
彼はやってくる」。
謎の声に導かれるように、
レイ・キンセラは、
自ら所有するトウモロコシ畑に
野球場建設を決意する。
球場がある程度の形を整えた
ある夜、ついに彼が現れる。
彼の名は、シューレス・ジョー…。

名画「フィールド・オブ・ドリームス」
原作本です。
この映画を何度観たことでしょう。
「好きな映画を挙げろ」と言われれば、
最上位に推したいものの一つです。
それでいながら
原作本が存在していたことに、
長い間気づかずにいました。
映画も素敵なのですが、原作も
小説ならではの面白さに溢れています。

〔主要登場人物〕
レイ・キンセラ
…トウモロコシ畑の農場主。
 謎の声に応え、畑に野球場を造る。
アニー・キンセラ
…レイの妻。レイを理解し、
 その行動を後押しする。
カリン・キンセラ
…レイとアニーの一人娘。
(シューレス)ジョー・ジャクソン
…伝説的な野球選手。
 八百長疑惑で球界を永久追放された。
J.D.サリンジャー
…隠遁していた作家。レイとともに
 謎の声を聞き、行動を共にする。
アーチー・グラハム
…老年の医師。
 かつてのメジャーリーグ選手。
 野球選手を目指す
 青年の姿としても現れる。
ジョン・キンセラ
…レイの父。かつてメジャーリーグを
 目指した野球選手。キャッチャー。
エディ・シズンズ
…元シカゴ・カブス選手。
 レイの農場の元の持ち主。
マーク
…アニーの兄。
 レイの農場を買い取ろうと画策する。
リチャード・キンセラ
…レイの双子の弟。
 しばらく行方がわからなかった。
ジプシー
…リチャードの妻。

本作品の味わいどころ①
緻密に紡ぎ上げた人間物語

原作は映画以上に緻密です
(映画は約2時間の尺に合わせる以上、
簡潔にしなければならないので
当然なのですが)。
キンセラ家に満ちている愛情と信頼、
マークがレイの土地を欲しがる経緯、
隠遁した作家サリンジャーとの交流、
双子の弟・リチャードと
父・ジョンとの間のわだかまりと愛情、
そうしたものが
実によく創り出されています。
この精巧な人間物語こそ、
しっかりと味わうべきポイントです。

本作品の味わいどころ②
実在の人物を配置した

リアルなファンタジー
登場する野球選手(幽霊)の
シューレス・ジョーも
ムーンライト・グラハムも、
実在した人物です。
映画では「テレンス・マン」という名で
登場した隠遁作家も、
J.D.サリンジャーという
実在する作家を擬えています。
主人公キンセラも
作者自身の名前(ただし作者は
ウィリアム・パトリック・キンセラ)
であり、アメリカの野球と文学を
知る人にとってはリアル感に満ちた
設定となっているのです。
それがファンタジーであり
メルヘンでありSFでもある本作品に、
しっかりとした
輪郭を与えているのです。
この現実感ある幻想こそ、
十分に味わうべき
ポイントとなっているのです。

本作品の味わいどころ③
万人に伝わる作者の野球愛

全篇に溢れているのは
作者の野球愛です。
作者は登場人物の一人・
エディ・シズンズの口を借りて、
次のように告白しています。
「わたしは野球という言葉を得て
 それを話しはじめる。
 それを語り、生きはじめる。
 その言葉は野球である」

そうした文言がなくとも、
本作品の筋書きは、
作者の野球愛を読み手に伝えて
あまりあります。
決して野球好きではないあなたも、
本作品を読めば作者の野球愛の深さに
心を打たれるはずです
(ただし本作品には
野球のプレー・シーンは意外に少なく、
野球の面白さ自体はもしかしたらあまり
伝わってこないかも知れません)。
この溢れ出ている野球愛の深さこそ、
噛み締めるようにして味わうべき
重要なポイントとなっているのです。

W.P.キンセラ。
あまり聞くことのない名前ですが、
著作を見ると
野球がらみのものばかりです。
「アイオワ野球連盟」「野球引込線」
そしてなんとイチローの登場する
ノンフィクション
「マイ・フィールド・オブ・ドリームス
 ~イチローとアメリカの物語~」まで
執筆していました。

多くがすでに
絶版となっているのですが、
埋もれてしまうには
惜しい作品と作家であると考えます。
野球の好きなあなた、
WBCの侍ジャパンに
しびれているあなた、
そしてアメリカ文学好きのあなた、
読んで決して損のない作品です。
単行本か文庫本を
古書店で探してみてください。

※ちなみにキンセラはカナダ人です。
 「シューレス・ジョー」は
 英語で執筆されています。

〔「シューレス・ジョー」〕
単行本「シューレス・ジョー」
文庫本「シューレス・ジョー」

(2023.4.3)

Ernesto RodriguezによるPixabayからの画像

【関連記事:野球小説】

【関連記事:アメリカ文学】

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥1,584 (2024/06/18 00:35:06時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA