「グレート・ギャツビー」(フィツジェラルド)

ギャツビーという人物像の「偉大さ」

「グレート・ギャツビー」
(フィツジェラルド/野崎孝訳)
 新潮文庫

「グレート・ギャツビー」新潮文庫

「偉大なギャツビー」
(フィツジェラルド/野崎孝訳)
(「集英社ギャラリー
   世界の文学17 アメリカⅡ」)

「集英社ギャラリー世界の文学17」

「ぼく」の隣の大邸宅の主人・
ギャツビーは、
たびたび豪華なパーティーを
開催していた
富裕層の青年だった。
ある夜、ギャツビーは
「ぼく」をパーティーに招待し、
親しげに接近してくる。
「ぼく」に、デイズィを
お茶に誘って欲しいと…。

学生の時に初読し、
その後も何度か読み返した本作品。
万人受けする
面白さがあるわけでもなく、
心に棘を刺すような
文学的主題が潜んでいるわけでもなく、
胸躍るような冒険や恋愛が
登場するわけでもないのですが、
なぜか強烈な引力を持って
私に迫ってくる作品です。
何が引きつけるのか?
表題どおりギャツビーの
「偉大さ」なのではないかと考えます。

〔主要登場人物〕
「ぼく」(ニック・キャラウェイ)
…語り手。心優しく物静かな好青年。
 ニューヨークの証券会社社員。
 ギャツビーの隣人。
ジェイ・ギャツビー
…若くして富を得た、
 謎に包まれた青年紳士。
 本名ジェームズ・ギャッツ
デイズィ・ブキャナン
…ギャツビーの元恋人。
 ニックのまたいとこ。
 トム・ブキャナンと結婚。
トム・ブキャナン
…デイジーの夫。
 ニックの大学時代の学友。
 学生時代はアメ・フト選手。
ジョーダン・ベイカー
…デイジーの親友。
 ニックと一時恋仲となる。
ジョージ・ウィルソン
…自動車整備店店主。
マートル・ウィルソン
…ジョージの妻。トムの不倫相手。
 デイジーの運転する車にはねられ
 事故死。

ギャツビーという人物像の
「偉大さ」の一つは、
1920年代当時のアメリカの力強さを
象徴したような造形にあるといえます。
第一次世界大戦後の好景気で、
自動車やラジオが一般庶民にも普及し、
ニューヨークには高層ビル群・摩天楼が
形成されていった1920年代。
ジャズが開化し、
フラッパーが現代の女性を再定義し、
アール・デコが頂点を迎えた1920年代。
アメリカがもっとも
華やいでいた時代です。
ギャツビーもまた、
いわゆる成金であり、
アメリカン・ドリームを
体現した男です。
そして大邸宅を買い取り、
毎週に及ぶパーティー開催と、
華麗な生活を送っているのです。
その成功者としての姿が、
「偉大さ」の一つと考えられます。

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それでいてその人物像に潜む
「影」の部分も、
「偉大さ」の一つといえます。
謎に包まれたギャツビーですが、
ブキャナンの調査により、
詐欺師まがいの人物たちと
非合法な手段で富を得たことが
示唆されます。
これもまた、経済発展の影で
アル・カポネに代表される裏組織が
暗躍していたことと重なります。
ギャツビーの「非合法な手段」とは
酒の密輸であり、
まさにアメリカの「影」を
併せ持っていること自体が「偉大さ」の
二つ目といっていいでしょう。

そうした
清濁併せ持つ人物でありながら、
彼の「目的」は一点の曇りのない
純粋そのものです。
かつて愛していた女性・
デイズィを得ることだったのです。
すでに他人の妻となった女性を、
5年間諦めることなく求め続け、
彼女の住む町の大邸宅を買い取り、
パーティーを催し、
彼女が来ることを夢見るという、
遠大な計画を実行していたのです。
その限りない純粋さこそ、
彼の持つ最大の「偉大さ」なのでしょう。
しかしそれは当時のアメリカでは
すでに失われてしまったものであり、
それ故に人々が
希求したものだったのかも知れません。

その「偉大な」ギャツビーは、しかし、
突然命を奪われ、
物語は幕を閉じるのです。
本作品が書かれたのは、
その「狂騒の20年代」まっただ中の
1925年でした。
20年代のアメリカ社会の
象徴として登場したギャツビーが
突然の落命を迎えたのと同じように、
本作品発表の4年後、
アメリカはウオール街の大暴落を招き、
華やかな時代は終焉を迎えます。

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ギャツビーがアメリカの象徴なら、
そのギャツビーを観察する語り手
「ぼく」(キャラウェイ)は、
まさしく作者・フィツジェラルド
その人なのでしょう。
20年代の終焉を
予測したような筋書きは、時代を
鋭く読み解いた結果と考えられます。

いや、その作者自身も、
20年代の終焉とともに凋落し、
44歳の若さでこの世を去っています。
フィツジェラルドは
時代の観察者であったとともに、
時代と同化し、
時代を体現した一人だったと
いうことなのでしょう。
そうした意味において、
「グレート・ギャツビー」はまさに、
1920年代を象徴する傑作文学なのです。

さて、
「グレート・ギャツビー」の時代から
100年が経過し、
世の中は再び混沌としてきました。
ロシアによるウクライナ侵略戦争が
何らかの形で収拾を迎えたとき、
アメリカには、そして世界には
再び輝かしい時代が
訪れるのでしょうか。
2020年代を象徴する文学作品は
未だ現れていないように感じられます。

〔「集英社ギャラリー
   世界の文学17 アメリカⅡ」〕

偉大なギャツビー
  フィッツジェラルド
アブサロム、アブサロム!
  フォークナー
日はまた昇る ヘミングウェイ
南回帰線 ミラー
狂信者イーライ フィリップ・ロス
つかなかった噓 アンダーソン
殺し屋達 ヘミングウェイ
白い象に似た山々 ヘミングウェイ
銀の冠 マラマッド
白い雄鶏 ゴーイエン
昆虫の秩序 ギャス
遠い国の出来事 ボールズ
旅人 ホークス
リチャード・ニクソン
 魔弾の射手のラグタイム
   ダヴェンポート
誕生日の子供たち カポーティ
空中浮揚 オジック
戦争の絵物語 バーセルミ
シャイロー メイソン
激闘 LSシュウォーツ

(2023.2.20)

Felix DillyによるPixabayからの画像

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