「クリスマスツリー」(サラモン)

少女の心を保ち続けたシスター・アンソニー

「クリスマスツリー」
(サラモン/中野恵津子訳)新潮文庫

ロックフェラー・センターの
クリスマスツリーの設置を
任されている「私」は、
ある修道院の敷地内に育った
一本のドイツトウヒを
次のツリー候補として選んだ。
それを譲り受けるべく
訪れた「私」は、
その木の友だちであるという
シスター・アンソニーと出会う…。

その木はシスター・アンソニーと
肉親同様に育ってきた
木だったのです。
「私」はその木の入手を
諦めるものの、
なぜかシスターの話に
引き込まれます。
以来何年かにわたり、
シスターのもとを訪れ、
「私」は話を聞いているのです。

「私」はいい人です。
「あまり才能豊かとは
 いえない私にも、
 これだけはという
 生まれつきの才能がある。
 木に気品があるかどうか
 見分けることができるのだ。
 クリスマスツリーの
 飾り物や電球よりも
 明るく輝く”魂”があるかどうか
 ―その美しさは外面だけではなく、
 内面から来ているものかどうか。」

シスター・アンソニーもいい人です。
「父を亡くした少女は
 引き取られた修道院で
 一本の木と出会った。
 その小さな木を、
 少女は『トゥリー』と呼び、
 二人は友だちになった」

この二人が創る物語ですから、
感動しないはずがありません。
ぜひ読んでみて下さい。
おわり。

という風に、
余計な説明の不要な作品ですが、
一つだけ「余計な説明」を
するとすれば、
シスター・アンソニーから
受ける印象です。
私は(私だけではなく、
普通の人は皆そうだと思うのですが)
読みながら情景を
頭の中に思い描きます。
このアンソニーは
文脈からすると
私と同じ50前後
(最後の場面では63~65くらい)で
あるはずなのですが、
受ける印象は何とも若々しいのです。
「私」とアンソニーの会話は
40代のおじさんと
50代のおばさんの筈なのですが、
おじさんと少女の会話のようにしか
頭の中に再現できないのです。

少女の頃に修道院に引き取られ、
以来この「トゥリー」とともに
過ごしてきた彼女の魂は、
年を取らずにいたのでしょう。
そんな少女の心を
保ち続けたアンソニーが
大地に根付いて生きている
「トゥリー」と別れる場面、
そしてクリスマスの衣装をまとった
「トゥリー」と再び出会う場面、
さらには次の世代の新しい小さな
「トゥリー」について語る場面は、
涙が止まりません。

こんな素晴らしい本が廃版なんて。
ぜひネットで古書をお求め下さい。

(2018.12.25)

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