「看護師という生き方」（宮子あずさ） | ラバン船長のブックセイリング

｢真剣｣と｢滑稽｣、生の現場の迫力

「看護師という生き方」（宮子あずさ）
　ちくまプリマー新書

看護師という仕事は、
働く人の人間性に強く働きかけ、
特有の人生を
生きることになります。
平たく言えば、看護師として
働き続けていくにつれて、
看護師はみな看護師っぽく
なっていきます。
これには例外はありません。
なぜなら…。

楽しく読むことができました。
五十をとうに超えた私が、
何のために
｢看護師になりたい人のための本｣を
読んだのか？
進路指導のための情報収集です。
正直に言って、
直接進路指導に結びつく
｢情報｣としての部分は
決して多くはありません。
しかし本書は、中学生に
ぜひ薦めたいと思う素敵な一冊です。

〔本書の内容(章立て)〕
まえがき
第1章看護師っぽい人
第2章私が看護師っぽくなるまで
第3章看護師は、
　　　　生き抜く力が身につく仕事
あとがき
　看護師として生きたいあなたへ
付録
　看護師になるまでのケーススタディ

中学生に、ここがオススメ①
｢真剣｣と｢滑稽｣～生の現場の迫力
｢看護師という生き方｣という、
硬めの表題からは想像のつかないほど
面白い話が、
第1章からいくつも飛び出します。
筆者がこれまで体験した事例が
多数紹介されているのですが、
｢事例1｣からして噴飯ものです。
なんと｢事例1
心肺蘇生としているベッドの隣で、
桃の缶詰の空き缶にうんこをした
認知症の女性｣。
誤解してはいけません。
筆者はそうした事例を引き起こした
患者を笑いものにしようなどとは
これっぽっちも思っていません。
心肺蘇生という命が助かるかどうかの
瀬戸際の治療を行っているその傍らで、
思いもよらない珍事も同時に起こる。
それが医療の現場の生の姿であり、
それに動じることなく
適切な判断と処置を行っている様子が
しっかりと伝わってきます。

これが深刻な場面ばかりが
延々と続いていたらどうでしょう。
医療を志そうとしている若い人が
どんどん
引いてしまうに違いありません。
ただおもしろおかしいだけの
体験談ではないのです。
看護師とはどういう職業なのかという
本質的な部分が、その核心に
しっかりと描かれているのです。

中学生に、ここがオススメ②
進路実現には紆余曲折がつきもの
｢看護師という生き方｣という表題から
イメージされるのは、幼い頃に
看護師の献身的な働きに心を打たれ、
強い意志で看護師を目指した
人間の生き方、というドラマです。
しかしここには
そのようなものもありません。
筆者が看護師を目指した動機は
｢稼ぐ女になりたい｣。
しかも進学した文系の大学を中退し、
看護専門学校を受験し直したという
経緯なのでした。
そうして入学した看護学校での実習は、
失敗の連続。
第2章には、そうしたことが
ありのままに記されています。

もちろん幼少期での体験をもとに、
熱血の志で職業選択をした方も
世の中には少なくないのでしょう。
でも、迷いながらその職業を選択し、
自信を持てないまま
新人時代を過ごしたという場合の方が
多いのではないかと思うのです。
特別な人間の半生ではない、
どこにでもいる一人の人間の生き方が
正直に描かれているのです。

中学生に、ここがオススメ③
ベテラン職業人の語る深い職業観
その上で第3章では、
五十歳になった筆者が、
一段高い位置から
自身の半生を振り返り、
看護師という仕事とは何か、
そして職業人の在り方とは何か、
淡々と述べています。
看護師とは
｢寛容さが大事と、身に染みる仕事｣、
｢やけにならずに｢しょうがない｣と
思えるようになる仕事｣と説明し、
そして｢わかることも、
わからないことも大事にしよう！｣と
若い人に訴えかけているのです。
そこには職業人としての
高い誇りが感じられます。

看護師という生き方 (ちくまプリマー新書)

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今日のオススメ！

いっとき看護師の仕事は
3K｢きつい｣｢汚い｣｢危険｣な仕事として、
若い人たちから
敬遠された時期がありました。
さらには昨今のコロナ禍で
勤務が激化したことや
医療に対する差別･偏見が生じたことが
重なり、
看護師のなり手が減少しています。
子どもたちに看護師の仕事の魅力を
伝えるとすれば、
小難しいことを語るよりも、
現場の生の姿を紹介した方が
効果があると感じます。
興味関心を持つことが
第一歩なのですから。
学校図書館に
ぜひ置いて欲しい一冊です。