「幽霊旅館」(押川春浪)

ホラー、犯罪小説、冒険、SF、最後はポルノ

「幽霊旅館」(押川春浪)
(「押川春浪幽霊小説集」)国書刊行会

「押川春浪幽霊小説集」

「現世には確かに幽霊がある。
幻影を見たのでもなければ、
神経の作用でもない。
僕は実際目撃して、
ほとんど死ぬような目に
遭って来た」と、
青年画伯白浜帆影は、
今もなお身の毛をよだてながら、
次のごとき気味悪い話をした。
私が…。

旅館やホテルの一室に幽霊が出る。
よくある話です。
押川春浪の書いた本作品もそうです。
でも、単なる超常現象を
扱った作品ではありません。
明治40年に発表された
エンターテインメント作品です。

〔主要登場人物〕
「僕」・白浜帆影
…青年画家。幽霊体験を語る。
 幽霊遭遇後、山賊に襲われ、
 金品を奪われる。
「かの女」
…白浜画伯が出会った女。
 右頬に古傷のある美女。
「婆」
…白浜画伯が宿泊した「永夢旅館」
 使用人の老婆。名はトルネア。
「幽霊」
…白浜画伯の宿泊した部屋に現れた
 白衣の女の幽霊。
「山賊」
…永夢旅館を脱出した白浜画伯を
 襲った山賊。二人組。
 名はリバジイとブロンガ。
「禿船頭」
…渡し船の船頭。禿げ頭。
「私」
…後半部の語り手。白浜画伯の友人。
 白浜画伯の幽霊話を確かめるために
 永夢旅館に乗り込む。
 催眠術の使い手。
「美人」
…永夢旅館の使用人と思われる美女。
 幽霊。名はメルス。かつては
 カシエム夫人と呼ばれていた。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
前半部、「僕」の語る幽霊怪異譚

本作品は(一)から(十二)の
12章からなり、
(七)までは前半部、
それ以降が後半部となります。
その前半部は、
「僕」が味わわされた恐怖体験が
綴られていきます。「僕」は、
いかにも怪しげな旅館を夜遅く訪れ、
いかにも怪しげな部屋に案内され、
いかにも怪しげな女の幽霊に遭遇し、
肝を冷やすのです。
ホラー小説の味わいが
濃厚に感じられるはずです。

命からがら
その旅館を脱出するのですが、
「僕」を待ち受けていた災難は
それだけではありませんでした。
山中をさ迷っている間に出くわしたのは
二人組の「山賊」。
金品を奪われ、
「僕」は途方に暮れるのです。
でも「幽霊」の後に「山賊」、
この取り合わせは何?
もしかして犯罪小説だったのか?
その違和感は、
後半部につながっていくのです。

本作品の味わいどころ②
後半部、「私」の語る大冒険活劇

後半部は打って変わって
「私」の大冒険活劇となります。
「幽霊なんていない」ということを
証明するために、
単身永夢旅館に乗り込むのです。
そして見事に「幽霊」と「山賊」の謎を
解き明かします。
冒険活劇としての味わいが出てきた
後半部の展開。でもどうやって?

なんとこの「私」、
強力な催眠術を使いこなせるという
エスパーまがいの語り手なのです。
相手と目を合わせた瞬間に、
相手の意識を36時間の間奪い、
さらに自白を強要できるという
とんでもない能力。
筋書きは終盤に差し掛かって、
SFじみてくるのですから驚きです。

本作品の味わいどころ③
これはいけない「私」のお仕置き

その「強力催眠」とも言うべき
恐ろしい能力を活用して、
「幽霊旅館」を隠れ蓑にしていた
犯罪組織を一網打尽にするのです。
その手口は爽快感を覚えながらも
「ちょっと待って」と
言いたくなるものです。
幽霊美女を強力催眠で眠らせ、
真相を語らせたまでは
良かったのですが、
その後なんと「私」は、
「昏睡せる美人を真裸にして、
その幽霊の装束を
ことごとく奪い取り」、
「大木の梢へ担ぎ上げ、
細紐をもって厳重に縛り付けた」。
いくら犯罪者とはいえ、
うら若い女性を裸にひんむいて
縄で縛り上げ、木に吊し上げるなど、
お仕置きにしては度が過ぎます。

という具合に、
ホラーから始まった本作品は、
犯罪小説、冒険活劇、SF作品と
その色合いを変え、
最後はポルノで締めくくる
(押川にはそんなつもりは
なかったのでしょうが)という、
味わいがめまぐるしく変化する
作品なのです。純粋に
エンターテインメントを追求した、
押川春浪ならではの作品なのです。
現代に引きつけて読んではいけません。
娯楽の少ない明治末期の
大衆の目線に立って、
本作品の面白さを
存分に味わいましょう。

〔「押川春浪幽霊小説集」〕
万国幽霊怪話
幽霊旅館
黄金の腕環
南極の怪事
幽霊小家
付録一 酒に死せる押川春浪
付録二 余の見たる押川春浪
付録三 押川春浪関係年譜

〔関連記事:押川春浪作品〕

〔押川春浪の本について〕
現代のものさしを持ったまま
本作品を読もうとすると、
「こんなものが怪談か!」と怒りだし、
本書を投げつけてしまう
結果になるでしょう。
押川春浪のコアな世界に入るためには、
まずは「海底軍艦」を読むことを
お薦めします。
「海底軍艦」は
青空文庫で読むことができます。

やや根が張りますが、
ペーパーバック版も登場しています。

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電子書籍なら、押川作品が
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本書に続いて、
「海底軍艦」をはじめとする多くの作品が
紙媒体として復刊することを
期待しています。

(2023.10.12)

Peter HによるPixabayからの画像

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