「モノグラム」(江戸川乱歩)

思い出話、愚痴話、惚気話、そしてコント

「モノグラム」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第3巻」)光文社文庫

「江戸川乱歩全集第3巻」

「どっかで
御目にかかりましたね」って、
おどおどした小さな声です。
多少予期していたので、
私は別に
驚きはしませんでしたが、
不思議と思い出せないのですよ。
そんな男、
まるで知らないのです。
「人違いでしょう。
私は一向御目に…。

大正15年に発表された
江戸川乱歩の短篇ですが、
ミステリーというよりも
コントというべき作品です。
しかも思い出話であり、
愚痴話であり、惚気話であるという、
不思議な作品となっています。
後年の猟奇趣味からは
遠く離れたテイストを堪能できます。

〔主要登場人物〕
「私」
…冒頭部分の語り手。
「私」(栗原一造)
…本文部分の語り手。
 守衛をしている。
田中三良
…公園で「私」に語りかけてきた男。
 「私」に会ったことがあるという。
北川すみ子
…北川家の養女で三良の姉。
 すでに病没。
 「私」が学生時代に憧れていた女性。
栗原園
…「私」の妻。ヒステリー。
 すみ子とは同級生。

本作品の味わいどころ①
出だしは純粋なミステリ

公園で偶然出会った「私」と田中。
田中は栗原とどこかで会ったと言い、
栗原も田中の顔に
見覚えがあったのです。
お互い初対面であり、その過去にも
重なる部分はないはずなのに、
なぜお互いを見たことがあると
感じたのか?
筋書きの前半は、そのような
ミステリ仕立てとなっているのです。
探偵小説らしい謎めいた展開を、
まずは味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
中盤は淡き恋の思い出話

「私」と田中をつないでいたのは、
田中が持っていた
姉の形見であることが判明します。
そこからは「私」の
淡い初恋の思い出話へと変化し、
雰囲気が一転します。
なんと田中の姉の北川すみ子が、
「私」の初恋の相手であることが
明かされるのです。
すみ子の遺品の中にあった
懐中鏡の中には「私」の写真が。
自分が片思いであったように、
彼女もまた
私に片思いをしていたのか…。
ノスタルジックなラブ・ストーリーが
紡がれていくのです。
胸のときめきを覚えるような
初恋物語を、
次にしっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
最後は愚痴、そして惚気

そこで終わっていても、
なかなかに味わいのある作品として
仕上がっていたのでしょう。
しかしそれで終わる乱歩では、
やはりありませんでした。
最後はヒステリックな女房の愚痴話から
お惚気話へと変わり、
しっかりオチがついて
幕が閉じられるのです。
二転三転し、結局はコント。
乱歩技ありの結末を、
最後にじっくりと味わいましょう。

表題の「モノグラム」とは、
二つ以上の文字などを組み合わせて
作成した記号のことです。
読売ジャイアンツのYGマークや
ルイ・ヴィトンのLVロゴが
それに該当します。
本作品には恋する二人の名前の頭文字を
組み合わせたIとSの
モノグラムが登場するのですが、
それは誰と誰のことなのか?
最後に「なるほど」と唸らされるような
仕掛けが施されているのです。
それもまた味わいどころの一つと
捉えていいでしょう。

さて、ミステリ作家は
得てしてコントも書き上げています。
乱歩には本作品の前年に発表された
「算盤が恋を語る話」などがあります。
横溝正史にも初期の短篇に
いくつかコントが見られます。
ミステリとコントは案外、
親和性が高いのかも知れません。

〔青空文庫〕
「モノグラム」(江戸川乱歩)

〔「江戸川乱歩全集第3巻」〕
踊る一寸法師
毒草
覆面の舞踏者
灰神楽
火星の運河
五階の窓
モノグラム
お勢登場
人でなしの恋
鏡地獄
木馬は廻る
空中紳士
陰獣
芋虫
私と乱歩 間村俊一

〔関連記事:江戸川乱歩作品〕

〔光文社文庫「江戸川乱歩全集」〕

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