「緑衣の鬼(少年探偵版)」(江戸川乱歩)

単純です、大人の事情を大胆にカット!

「緑衣の鬼(少年探偵版)」(江戸川乱歩)
 ポプラ社

「緑衣の鬼」ポプラ社

前夜、怪しい「影」に襲われた
笹本夫妻を見舞いに来た
大江少年は、
夫・静雄の遺体を発見する。
扉を破って
書斎へ入った少年だったが、
待ち受けていた賊に襲撃され、
昏倒する。
薄れゆく意識の中で捉えたのは、
緑色をした男の姿が…。

江戸川乱歩
イーデン・フィルポッツ
「赤毛のレドメイン家」を激賞、
自らも翻案作品「緑衣の鬼」
編み上げていたことを、
前回記しました。
実はさらに少年探偵シリーズ
(ジュヴナイル作品)へと
リライトされています
(リライトは乱歩ではない)。

〔主要登場人物〕
小林少年

…名探偵明智小五郎の助手。少年探偵。
 かつては明智家に同居していたが、
 この時点では独立している。
大江光一
…小林少年の友人。高校生。
明智小五郎
…私立探偵。事件解決に乗り出す。
笹本芳枝
…「影」「緑衣の魔人」に再三襲われる。
 美しい女性。旧姓・絹川。
 大江少年の姉・伸子と同級生。
笹本静雄
…芳枝の夫。画家。
 おかっぱ頭に黒眼鏡。殺害される。
夏目菊三郎
…芳枝の父。故人。
夏目菊次郎
…芳枝の伯父。六十近い老紳士。
 いくつかの会社の大株主。資産家。
 芳枝を義絶していたが、
 事件後、芳枝を引き取る。
夏目太郎
…菊次郎の息子。菊次郎とは別居中。
 緑色に固執し、所持品をすべて
 緑色に染める嗜好がある。
 芳枝に思いを寄せている。
夏目菊太郎
…芳枝の伯父。菊次郎・菊三郎の兄。
 菌類の研究者。独身。
山崎
…菊次郎の秘書の青年。美貌の持ち主。
 芳枝の護衛係として
 菊太郎にも雇われる。
佐助
…菊太郎の下男。
丸井定吉
…S村の漁師。夏目太郎からの伝言を
 菊次郎に届る。
中村警部
…警視庁捜査係長。
柳田一郎
…劉ホテルの客。
 岩瀬幸吉名で死体入りのトランクを
 銀行の貸金庫に預け、
 さらにもう一つのトランクに
 芳枝を押し込んでいた。
緑衣の魔人
…神出鬼没の黒マント・緑衣の怪人。
 柳田一郎と名乗っていた。

ジュブナイル化によって
何が変わったか?単純です。
大人の事情を大胆にカットし、
殺人以外、
すべて子どもでも理解できるように、
そして楽しめるように、
上手に編集してあります。
「赤毛のレドメイン家」から比較すると、
まったく異なる作品にまで
変容しているのです。

本作品の味わいどころ①
恋愛的要素がまったくなくなった!

「赤毛」ではブレンドンとドリアの
恋のさや当てが
重大な味わいどころでした。
「緑衣」ではそれが
大江白虹と山崎のそれへと
改変されていますが、恋愛要素はさらに
露骨になった印象がありました。
ところが大江白虹役は
小林少年へと交代したため、
恋愛話は一切カットされました。

それによって怪人「緑衣の魔人」
ただ一点に焦点が絞り込まれ、
ジュヴナイルとしての面白さが
際立つ結果となったのです。
まあ、本作品では小林少年も
独り立ちしているのですから
(年齢は記されていない)、
小林少年を恋愛ゲームの対抗馬としても
よかった気がするのですが、
シリーズ全体を見通したとき、
それはいささかまずかったのでしょう。

本作品の味わいどころ②
事件の動機がまったくなくなった!

「赤毛」は相当練られた
殺人の動機がありました。
「緑衣」もそれを踏襲しています
(やや薄くなって履いたのですが)。
それがミステリとしての
重要な鍵となっていたのですが、
それも一切カットされています。

もちろんそれによって怪人
「緑衣の魔人」ただ一点に
焦点が完璧に絞り込まれ、
ジュヴナイルとしての面白さが
断然際立ったものとなったのです。
所詮、少年少女に向けて
難しい話を垂れたところで、
面白さをそぐだけですから。

本作品の味わいどころ③
最後の対決がまったくなくなった!

「緑衣」では終末の謎解き場面で、
前半からの探偵役・大江白虹と、
後半登場の探偵役・乗杉の対決場面
(といよりも白虹の誤解による
言いがかりに近い)が、最後の
クライマックスとなっていました。
これも一切カット
…にはなっていません。
白虹役が小林少年、
乗杉役が明智となってしまったため、
驚愕の師弟対決となるのか…と思うと、
そうもなっていません。
名探偵が実は犯人であるという
「珍説」を宣うのは、
ジュヴナイル版ではなんと田舎署長。
これならいくら恥をかいても大丈夫。

署長と明智が
派手にドンパチを繰り広げた結果、
真犯人の存在がそっちのけみたいに
なってしまったのは致し方なしです。
そこを何とか真犯人対明智小五郎の
構図にすれば、
完璧なジュヴナイルなのですが、
文句は言わないことにしましょう。

読み終えてみると、さらに改変し、
殺人事件も思い切ってカットし、
「緑衣の魔人」に
宝石の一つでも盗ませれば、
立派に「二十面相シリーズ」の
一つとなります。
原版そのものが十分に
ジュヴナイル色の強いものでしたので、
改変しやすかったのでしょう。

本作品はポプラ社少年探偵シリーズ
第34巻。
全46巻のうち、27巻以降は
大人物のリライト版です。
ハードカバー全集絶版後、
サイズを小さくして
二度復刊しましたが、
リライト版は復活せず、
貴重な存在です。
子ども向けといわず、
十分に味わい、愉しみましょう。

(2024.1.19)

〔関連記事:「赤毛のレドメイン家」〕

〔関連記事:「緑衣の鬼」〕

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「27 黄金仮面」
「28 呪いの指紋」
「29 魔術師」
「30 大暗室」
「31 赤い妖虫」
「32 地獄の仮面」
「33 黒い魔女」
「34 緑衣の鬼」
「35 地獄の道化師」
「36 影男」
「37 暗黒星」
「38 白い羽根の謎」
「39 死の十字路」
「40 恐怖の魔人王」
「41 一寸法師」
「42 蜘蛛男」
「43 幽鬼の塔」
「44 人間豹」
「45 時計塔の秘密」
「46 三角館の恐怖」

RAMPO WORLD
Pete LinforthによるPixabayからの画像

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