「百年文庫043 家」

描かれているのは「人間の暮らし」

「百年文庫043 家」ポプラ社

「百年文庫043 家」ポプラ社

「帰宅 フィリップ」
四年ぶりに家に帰ってきた
ラルマンジャは、
何事もなかったかのように
妻や子どもたちに
迎え入れられる。しかし、
その後にやって来た
かつての知り合い・バディストの、
いかにも落ち着き払った
様子から、彼は
事情の一切を理解する…。

「小さな弟 フィリップ」
子どもたちが
学校からもどってみると、
産婆のビュヴァ婆さんが
来ていた。
今夜はブーテ小父さんのところで
泊まるよう、子どもたちは
父親から言い渡される。
両親は旅行に出
かけるのだという。でも、
長女のジュリーは覚えていた…。

百年文庫第43巻を読了しました。
テーマは「家」。
建物としての「家」というよりは、
生活の基盤としての「家」、
もしくは心の拠り所としての
「家」ということでしょうか。

「いちばん罪深い者 フィリップ」
日曜日の午前中から
居酒屋で盛り上がっていた
ペティパトン、ボルドー、
ロメの三人は、
酔った勢いで教会へと入り込む。
だが神父の説教の最中、
酩酊していたペティパトンは
叫び出す。
「いちばん罪深い者、
そりゃあ、わしですよ」…。

〔「百年文庫043 家」〕
帰宅
小さな弟
いちばん罪深い者
ふたりの乞食
強情な娘
老人の死
 フィリップ
甚七南画風景 坪田譲治
みかげ石 シュティフター

「ふたりの乞食 フィリップ」
年に二度、町を訪れる
乞食のサンテュレル老夫婦を、
人々はみな心待ちにしていた。
だが、ある年の春、
やってきたのは
婆さん一人だけだった。
聞けば、
爺さんはなくなったのだという。
彼女は物乞いをするのも
これを最後にすると…。

「強情な娘 フィリップ」
授業の暗唱で失敗し、
罰を言い渡されたジュリー。
ラムルー先生の仕打ちを
不当だと感じた彼女は、
賞状授与式での音楽指導の役割を
拒否する。
先生は自分だけの力では
生徒に歌を教えることが
できなかったのだ。
頑ななジュリーは…。

本来は三人の作家による
一人一作のアンソロジーである
百年文庫なのですが、
本書一人目の作家
シャルル=ルイ・フィリップは、
例外的に短篇作品6編が
収められています。
やりきれない悲しさを帯びた
作品もあれば、
ほのぼのとした明るさに満ちた
作品もあるのですが、
共通しているのは
「帰る」ということでしょうか。

「老人の死 フィリップ」
妻を亡くした
テュルパン爺さんは、
何をする気にもなれなかった。
椅子に腰掛けて
うなだれている姿勢が
最も落ち着くと、彼は気づく。
そうしていると
さまざまな思い出がよみがえり、
生前の絆が
再び結びついているような
気がして…。

「甚七南画風景 坪田譲治」
甚七老人は齢八十で、
楽しみは方々を見物して
廻ることであった。
遠いところではない。
八十年の生涯に記憶に残る
近くの石橋であるとか。
村端れの一本の
柳の木であるとか。
あれはどうであったかな――
そんなことを思いだしては…。

本書二人目の作家の作品は、
童話作家・坪田譲治の書いた
大人向けの短篇作品(1938年発表)です。
といっても、八十歳の甚七老人の
とりとめもない生活の様子を
切り取ってきたような作品です。
その中にしみじみとした温かさと
安らぎを感じてしまいます。

「みかげ石 シュティフター」
ある春のことだった。
ひどい病気が突然、
わしらのところにも
やって来たのだ。
そしてこのあたり一帯に
すっかり広がった。
道の上にまだ残っている
散った白い花の上を、
死人が運ばれていった。
この疫病は
ペストという名前だった…。

本書三人目の作家は
オーストリアのシュティフター
ペストという恐ろしい病気が
記されているのですが、
パンデミックを扱った
作品ではありません。
「おじいさん」の昔語りに現れるだけで、
作品自体は終始穏やかです。
昔語りを始める前の
「おじいさん」の口上が素敵です。
「神さまがお作りになった
 この世の中では、人間どもが
 どんな不思議な目にあうものか、
 この話をきけば
 わかることじゃろう」

合計八作品、それぞれに
「家」を通して描かれているのは
「人間の暮らし」です。
人の生活なくして
「家」は有り得ないのです。
そういえば、人が住まなくなった家は
劣化が早いといいます。
「換気が不十分で湿気がたまる」
「堆積した埃を餌に菌や虫がはびこる」
など、その原因は
いろいろと指摘されてはいるのですが、
仮説の域を出てはいないのだそうです。
「家」は住む人間の心を守り、
そこに住む人の魂は「家」に生命を
吹き込んでいるのではないか。
理科教師としてこのような
非科学的なことを書いては
いけないのでしょうが、
そう思うことが確かにあります。

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今日のオススメ!

本書に登場する三人の作家は、
私にとっては初めての作家たちでした。
坪田譲治の名前を
知っているくらいでした。
作品そのものから受ける
印象は地味ですが、
そこに描かれているものは
滋味に溢れていて、
味わい深いものばかりです。
もっともっと多くの作品を
読んでみたいと思わせる
三人の作家です。
ぜひ本書の作品群から、
まずはご賞味ください。

(2024.5.21)

〔フィリップの作品について〕
フィリップは1908年から
09年までの間に、
新聞紙上にて49の短篇を発表、
それらは「小さな町で」と
「朝のコント」に分けて出版されました。
かつて岩波文庫から淀野隆三訳で
「小さき町にて」「朝のコント」として
出版されていましたが、
すでに絶版となっています。
2003年にみすず書房より単行本
「小さな町で」が刊行されましたが、
そちらもすでに絶版です。
古書か電子書籍を探すしかない
状態です。

〔坪田譲治の本について〕
文庫本については
ほぼすべてが絶版状態にあります。
電子書籍ではいくつか見当たります。
「坪田譲治童話集かっぱとドンコツ」
「新編 坪田譲治童話集」
「日本むかしばなし集(一)」
「日本むかしばなし集(二)」
「日本むかしばなし集(三)」
「せみと蓮の花・昨日の恥」

〔シュティフターの作品について〕
現在流通しているのは以下のものです。

絶版扱いですが、古書をあたれば
以下のものも入手可能です。
「みかげ石 他二篇」(岩波文庫)
「森の小道・二人の姉妹」(岩波文庫)
「晩夏(上)」(ちくま文庫)
「晩夏(下)」(ちくま文庫)
「作品集第3巻 森ゆく人」(松籟社)

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