「すきまのおともだちたち」(江國香織)②

ライトノベルから純文学へのミッシングリンク

「すきまのおともだちたち」
(江國香織)集英社文庫

「若者の本離れ」と言われますが、
どうしてどうして、
全国の小中学校のほぼすべてで
朝読書が実施されています。
つまり、日本の小中学生は
毎日読書をしているのです。

問題はその中身です。
中学生は学年が上がるほど
読書の「質」の低下が見られるのです。
ライトノベルを読んでいる中学生が
あまりにも多すぎます。

ライトノベルの中にも
良書はたくさんあります。
ライトノベルから
読書に入ってもいいのです。
それを否定するつもりはありません。
私自身も
江戸川乱歩の少年探偵団から
読書に入門したのですから。
しかし、ライトノベルには
2つの問題点があるのです。

一つは、最近のライトノベルには
性を軽々しく扱っているものが
氾濫しているということ。
挿絵には少女の裸のイラストが
これでもかと載っています。

もう一つは、
ライトノベルは食事でいえば
「離乳食」であるということ。
いつまでも離乳食ばかりでは、
歯やあごが成長しません。
徐々にかたい食べ物に慣れさせる。
読書も同じことです。

ライトノベルから
抜けきれない子どもたちは、
やがて本から離れていきます。
読書を単なる
エンターテインメントとしか
捉えられない人間は、
読書以外のより「面白い」メディアに
移行していくからです。
今、子どもたちに対して必要なのは
「発達段階に応じた読書指導」と
まともな「本の情報提供」なのです。
中学校段階で、
読み応えのある美しい日本語の作品へ
導くプロセスを研究することが
大切だと感じています。

では、中学生にとっての
読書のスタート地点は
どんな作品がふさわしいか?
佐藤多佳子「ごきげんな裏階段」、
瀬尾まいこ「卵の緒」、
湯本香樹実「夏の庭」等を
当ブログでこれまで紹介しましたが、
本書もお薦めです。

出張で出かけた町から、
突然見知らぬ町へ
迷い込んでしまった「私」。
そこで出会った不思議な女の子。
「私」は気付く。
そこは決して変わらないものが
存在し続ける町。
そこではあるものをあるがままに
受け入れることが大切…。

そうです。本書は
「不思議の国のアリス」の日本版・大人版。
こうした本が、本格的な純文学への
橋渡しとなると考えます。
そしてこうした本こそが、
ライトノベルから純文学への
いわばミッシングリンクともいえる
存在なのです。

大人向けの童話なのですが、
中学生でも十分味わえます。
こうした作品から、
文学の深遠な森へ
子どもたちを誘うことができればと
考えています。

(2018.8.19)

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