「女生徒」(太宰治)①

何ともいえず「女生徒」っぽい

「女生徒」(太宰治)
(「百年文庫001 憧」)ポプラ社

朝は健康だなんて、
あれは嘘。
朝は灰色。
いつもいつも同じ。
一ばん虚無だ。
朝の寝床の中で、
私はいつも厭世的だ。
いやになる。
いろいろ醜い後悔ばっかり、
いちどに、
どっとかたまって胸をふさぎ、
身悶えしちゃう。
朝は、意地悪。

学生の頃、
太宰にはまっていた私ですが、
本作品だけはどうしても
好きになれませんでした。
この「女性一人称告白体」という文体に
慣れていなかったのだろうと思います。
文章の向こう側に、
頬杖付いた太宰が浮かんでしまい、
つい吹き出しそうに
なってしまうのです。
当時、桃尻語訳「枕草子」が
流行っていたこともあり、
表面的なおかしさが必要以上に
目に付いたこともあったのでしょう。

それが、
40過ぎてから再読したら、
驚くほど新鮮に感じられました。
作品に純粋に入り込むことが
できるようになり、
本作品の文章・文体の面白さを
味わえるようになったからです。

冒頭に載せた一節からしてそうです。
少ない文節で細かく句読点で区切る、
そして体言止め。
この文章のリズムが、
何ともいえず「女生徒」っぽい。
単純な言い回しの中に
難しい単語をちりばめる、
堅い言葉を使用しながら
簡単な漢字にひらがなを紛れ込ませる。
この表現、この文体が、
何ともいえず「女生徒」っぽいのです。

「私ひまなもんだから、
 生活の苦労がないもんだから、
 毎日、幾百、幾千の
 見たり聞いたりの
 感受性の処理が出来なくなって、
 ポカンとしているうちに、
 そいつらが、
 おばけみたいな顔になって
 ポカポカ
 浮いてくるのではないのかしら。」

自分のことがよくわかっているのか
わかっていないのか、
それ自体が判然としない。
この曖昧模糊とした感覚が、
何ともいえず「女生徒」っぽいと
感じてしまうのです。

「美しく生きたいと思います。」
不意を突いて、
一瞬だけ見せるこの美しさが、
何とも言えず「女生徒」っぽくて
たまらないのです。

「よごれものを、全部、
 一つものこさず洗ってしまって、
 物干竿にかけるときは、
 私は、もうこれで、
 いつ死んでもいいと思うのである。」

ここだけ
太宰本人が顔を出しています。
でも、これすらも、
何ともいえず「女生徒」っぽい。

ただし、
男性の考える「女性らしさ」と、
女性が感じる「女性らしさ」とは
かなりずれがあるはずです。
女性のみなさんは
本作品をどう受け止めるか、
そして現代の女子高生は
本作品をどう読み取るか、
興味津々です。

※本書は百年文庫と銘打たれた、
 ポプラ社刊のアンソロジー全集、
 何と全100巻。
 一冊ごとに
 漢字一文字のテーマが与えられ、
 そのテーマに沿った3作品が、
 洋の東西にかかわらず
 編まれています。

※新潮文庫の「走れメロス」に
 収められていますので、
 一般的にはこちらをお薦めします。

※以前、某文庫から、
 女子中学生2人の写真を使った表紙の
 文庫本が出版されていました。
 内容と全く合致しない表紙であり、
 編集者、および出版社の
 センスを疑ってしまいました。

(2018.11.14)

【青空文庫】
「女生徒」(太宰治)

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