「女生徒」(太宰治)②

「女生徒」と絶妙にマッチしています

「女生徒」(太宰治)
(絵:今井キラ)立東舎

文学とお洒落なイラストの
コラボレーション
「乙女の本棚」シリーズ
取り上げるのも
これで5冊目となりました。
本書はシリーズの第1作。
ここが原点です。

内容的にはぴったりだと思います。
本作品は
筋書きというものは見当たらず、
一人の「女生徒」が、
朝目ざめてから
夜眠りにつくまでの
一日に感じたことを、
ただただ並べただけのものであり、
「女生徒」の感性を
楽しむべきものだからです。
イラストが添えられれば、
なお楽しめるはずです。
本書のイラストレーターは
今井キラさん(著作物を見る限り
少女イラストが専門の方のようです)。
このイラストがまた
「女生徒」と絶妙にマッチしています。

一つはタッチの繊細さ。
女性らしい実にきめ細やかに
描かれたイラストです。
主人公「私」の、
いろいろなことが
気になってしまう繊細さと
実によく調和しています。

一つは淡い色使い。
これまで取り上げた
「瓶詰地獄」「猫町」「檸檬」「蜜柑」
ややきつめの色彩とは異なり、
押さえた色調で
薄味のイラストです。
これが、
自分の気持ちすらはっきり表せない
曖昧模糊とした「私」の感覚と
うまく対応しています。

そして一つは少女の無表情。
文章として
いろいろ書き綴られていますが、
「私」は外見的には無表情に近く、
ときどき愛想笑いをしている
程度だったのではないかと
推察されます。
「私」を無表情で描きながらも、
その周囲に「私」の心情に
繋がるものを配置する巧みさ。
「私」をよく表現していると思います。

ただし、本書の場合、
作品の文章量が多く、
文章が主、
イラストが従の関係となっています。
これまで取り上げた4作品は、
イラストが文章と対等もしくは
それ以上の存在となっていた分、
やや物足りなさを感じます。

おそらく
シリーズ第1作ということで、
タイトルも内容も
「乙女の本棚」にふさわしいものとして、
出版社も無難な線を
選んだのかも知れません。
それが第6作では
夢野久作の「瓶詰地獄」まで
冒険するのですから、
シリーズの編集者のセンスは
かなり前衛的挑戦的なのでしょう。

本シリーズはなかなか好評のようで、
現在9作目まで出版されています。
おそらく文学を若い人たちに
アプローチする試みとして
生み出されたのでしょうが、
50を過ぎたおじさんも
十分に楽しんでいます。
今後の続刊が楽しみです。

(2018.11.14)

【青空文庫】
「女生徒」(太宰治)

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