「僕の明日を照らして」(瀬尾まいこ)

父子が協働して一つの問題を解決していった物語

「僕の明日を照らして」
 (瀬尾まいこ)ちくま文庫

中学2年生の隼太は、
母親が再婚し、
新しい父親・優ちゃんと
暮らし始める。
でも、優ちゃんは
ときどきキレて隼太を殴る。
そして正気に戻っては
深く後悔することを
繰り返していた。
隼太は、
それを全力で母親に隠していた…。

と、粗筋を書くと、
救いのない児童虐待の
物語のように思えます。
実際、
継父である優ちゃんの仕打ちは、
児童虐待以外の何物でもなく、
現実の世界であれば
児童相談所の出番となりそうです。
母親は夜の仕事のため、
隼太と優ちゃんの間に
そのようなことがあることに
気付かないのです。

隼太が母親にそれを隠し通すのは、
もう一人きりの夜を
過ごしたくないため、
せっかく手に入れた
父親の存在を
手放したくないからなのです。
優ちゃんはいつも優しく、
キレなければ
いたっていい父親なのです。
だからといって14歳の男の子が、
継父からの暴力に耐えられるのか?
疑問です。

ここで優ちゃんの
「キレる」パターンを見てみます。
多くの場合、
優ちゃんの立てた計画
(それも夕食後に
すぐに風呂に入る等の些細なこと)に
隼太がすぐに従わなかったことから
始まっています。
このことから優ちゃんが
発達障害であることが疑われます。
発作的に隼太を殴ってしまうのは、
結果的には児童虐待であるものの、
優ちゃん自身の問題としては
「パニック障害」ということに
なると考えられます。

一方、隼太にも
平均的な中学校2年生とは
異なる部分が見られます。
自分の感情のみで
先輩の靴を投げ捨てる
自分中心の感覚、
周囲の感情に気付かずに
ズバリと物事を言い切る
デリカシーのなさ等、
こちらにも発達障害の気配が
見え隠れしています。

歯科医師である優ちゃんと
結婚したにもかかわらず
夜の仕事を辞めない母親の姿勢、
隼太の変化に気付かない
母親の鈍感さ、
虐待に耐えてまで
継父に親しみを感じる隼太等々、
本作品の主題を
児童虐待に求めたとき、
設定の不自然さが気になります。
しかし、
発達障害を抱えた優ちゃんと
同じくその要素のある隼太が、
協働して一つの問題を
解決していった物語として捉えると、
そうした不自然さは
気にならなくなるのです。

作者・瀬尾がどのような意図で
本作品を書き上げたかは
わかりませんが、
私にはそのように読み取れました。
主人公が中学校2年生だからと
いうわけではありませんが、
中学生に薦めたい作品として
記しておきます。

※好悪が分かれる作品だと思います。

(2018.12.6)

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