「ステップファザー・ステップ」(宮部みゆき)

「売れている」理由を確かめたかった

「ステップファザー・ステップ」
(宮部みゆき)講談社文庫

プロの窃盗犯である「俺」は、
悪天候の中で失敗し、気を失う。
助け出してくれたのは
双子の中学生。
驚くことに
二人の両親は同時に
駆け落ち家出をしたのだという。
二人は「俺」を泥棒だと見抜き、
ある取引を提案してきた。
それは…。

ミステリーも時代物も
好まない私にとって、
宮部みゆきは
最も距離の遠い現代作家です。
でも、
本書だけは手に取ってしまいました。
理由は「売れている」から。
私の持っているもので
57刷目(2011年段階)。
現在どれだけ版を重ねたものやら。
「売れている」理由を
確かめたかったのです。

双子の中学生・直と哲が
「俺」に要求してきたのは
「父親」になること。
二人は兄弟だけの生活に
満足しているものの、
大人がいないと
どうにもならないこともあり
(例えば学校の保護者参観等)、
父親役をしてほしいと
持ちかけてきたのです。
ここから全7話に及ぶ
連作短篇が始まるのですが、
これが面白いのです。

ミステリーに
分類されるのでしょうが、
精巧なトリックも
手の込んだシチュエーションも
存在しません。
コメディに徹しているのです。
物語も文体も
軽い調子で流れるように進行し、
爽やかな思いに包まれます
(第3話のみ例外的に
やや重い話題を取り扱っていますが)。

そして登場人物が魅力的です。
職業的泥棒でありながら、
結果的には陰に回って
人助け的な働きをしてしまう「俺」。
「俺」をはじめとする大人を
上手にやり込めるしたたかな双子。
犯罪組織の元締めでありながら
人情家の「柳瀬の親父」。
このきわめて個性的な登場人物たちが
存分に持ち味を発揮しているのです。

さらに最初は双子に対して
つっけんどんに対応していた「俺」が、
少しずつ「親目線」になっていく構成も
読み応えがあります。
紆余曲折はありながらも、
多分こうなるだろうなと
予想していた通りにストンと
落ち着いていく。
人情ものの筋書きは
こうでなくてはなりません。

もちろん、
両親ともに別々の相手と
同時に家出をすることや、
父親の代役を
学校関係者も気付かないことなど、
無理な設定が多いのは確かです。
でも、
それがまったく気にならないほどの
エネルギーを持っている作品なのです。
全350頁が
一気に読み通せてしまいます。
「売れている」理由は、まさに
こうしたところにあるのでしょう。

中学校1年生に薦めたい作品です。
ここから読書に慣れてくれば、
いろいろな作品を読み通す力が
ついてくると思うのです。

※1993年の作品であるため、
 スマホはおろか
 携帯電話さえ存在しない、
 パソコンではなく
 ワープロが活躍する等、
 四半世紀前という
 時代を感じさせます。
 現代の中学生からすれば
 違和感を感じる
 可能性があります。

※本作品は
 「ステップファザー・ステップ
  屋根から落ちてきたお父さん」
 というタイトルで、
 講談社青い鳥文庫から
 小学生向けとして出版されてもいます。
 こちらはやはり
 第3話を収録していません。
 子どもに薦めるとすれば
 その形の方がふさわしいかと思います。

(2019.1.26)

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