「新編 あいたくて」(工藤直子)

かまきりりゅうじの詩ってすげえよな

「新編 あいたくて」(工藤直子)新潮文庫

「かまきりりゅうじの詩って
すげえよな。」4月に聞いた、
中学校一年生の発言です。
おいおい、
それは工藤直子の詩だろう。
そう教えても、タイトルの次に
「かまきりりゅうじ」の名前があるから
納得しません。

中学校一年生の国語の教科書に
真っ先に登場する詩の作者、
それが工藤直子です。
「おれはかまきり
 かまきり りゅうじ
 おう なつだぜ
 おれは げんきだぜ
 あまり ちかよるな
 おれのこころもかまも
 どきどきするほど
 ひかってるぜ」

中学校の国語学習は、
まさにここからスタートします。
この教材で
いかに新入生の興味関心を高め、
授業をアクティブに出来るか、
そこに教師の力量が現れる、と
同僚の国語教師が言っていました。

親しみやすい詩なのですが、
入学したての一年生には
少々誤解が生じることがあります。
一つは前述したように
「作者」と「話者」の
混同から来る誤解。
工藤直子ではなく、
「かまきりりゅうじ」くんの作品だと
勘違いする一年生が
少なからずいます。
もう一つは
「変な詩を作る詩人」という誤解。
動植物が語り手となる詩は、
子どもたちにとっては
異彩を放っているからでしょう。

できれば、この授業の
余韻が残っている段階で、
中学校一年生の子どもたちに
本書を紹介したいと思います。
そうすれば子どもたちの心に、
この詩人の本質が
染みこんでいくと思うのです。

ただし、この詩集には
「かまきりりゅうじ」くんは
収められてはいません
(「のはらうた」に収録されています)。
本書においては
工藤直子は人間を擬自然化せず、
人間の目線で
人間を見つめているのです。

「だれかに あいたくて
 なにかに あいたくて
 生まれてきた―
 そんな気がするのだけれど」

 (あいたくて)
「すきになる ということは
 心を ちぎってあげるのか
 だから
 こんなに痛いのか」

 (痛い)
作者の、人を求めようとする心が
平易な言葉で素直に綴られています。

中学校一年生に薦めたい一冊です。
味わうにはやや
難しいかもしれませんが、
新しい人間関係を切り開こうとしている
子どもたちの心に
響くものがあるはずです。
もちろん、大人の私たちも
癒やされる詩集です。

なお、佐野洋子
心があたたまるような挿絵が
添えられています。

(2019.2.25)

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