「猫館」(横溝正史)

人気は今ひとつ、でも読みどころは豊富です

「猫館」(横溝正史)(「七つの仮面」)横溝正史

東京の辺鄙な一画にある
通称「猫館」と呼ばれる古い洋館で、
女占い師・ドクトル・ハマコが
殺害される。
現場を訪れた金田一耕助は、
半裸の被害者のまわりを
取り巻く何匹もの猫と、
首を切りおとされた
黒猫の死体を目の当たりにする…。

短編作品であり、
金田一耕助ものの中では
あまり知られていない作品です。
巻末の解説を見ると、
本書「七つの仮面」は
単行本未収録作品を集めたもので、
雑誌掲載時の人気が
今ひとつだったことがうかがえます。
そうはいっても横溝作品、
やはり読みどころは豊富です。

本作品の読みどころ①
血まみれの猫の群がる猫館

事件が起きたのは
捨て猫が集まる(集めた?)
猫館(そうした猫屋敷は
昔からあったのか!)。
血まみれの猫がうろついている凄惨さ。
しかしその血は仲間の猫のもの、
被害者の死因は絞殺で外傷はない。
被害者はなぜか上半身だけ裸。
不可解な点の多い、
横溝ミステリー特有の
殺人現場の妙です。

本作品の読みどころ②
被害者周辺の爛れた関係

女の年齢は35、6歳。
肉付きのよい美人。
当然周囲にはよからぬ男女関係。
しかもその猫館では、
前の持ち主が戦前が
いかがわしい写真館を経営、
戦後には乱交バーティを主催、
被害者にも何らかの関係が。
横溝ミステリー特有の
情欲の嵐です。

本作品の読みどころ③
金田一の引き立て役・等々力警部

東京を舞台にした事件に
登場する等々力警部は、
岡山県警の磯川警部に比べ、
金田一の引き立て役に
徹している感があります。
本作品においても、
事件解決の見通しを
意気揚々と伝えに来た等々力警部は、
金田一から
血液鑑定の不十分さを指摘され、
たじたじになります。
案の定、事件は
等々力警部の見立てとは
違った展開へ進みます。
横溝ミステリー特有の
等々力警部の役回りです。

本作品の読みどころ④
やる気のない金田一と中途半端な謎解き

実は本作品、
金田一特有の名推理は登場せず、
真相究明に繋がる手がかりを
示唆するのみという
関わりに終わっています。
それも等々力警部が尋ねてきて
始めて告げるのです。
本作品の金田一には
なぜかやる気が感じられません。
また、終末に急展開し、
事件の全容は
推察で語られるのみです。
横溝ミステリー異例の
中途半端な謎解きです
(読み手に想像の余地を残したか?)。

こういう作品も含めて、
すべて愛しいと思えるのが
横溝ファンなのでしょう。

(2019.2.24)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA