「貝殻館綺譚」(横溝正史)

からくり仕立ての洋館・蘇生術・荒々しい謎解き

「貝殻館綺譚」(横溝正史)
 (「蔵の中・鬼火」)角川文庫

月代を崖の上から
突き落として殺害した美絵は、
岬の監視小屋から少年が
一部始終を見ていたことに気付く。
美絵が寄宿している
貝殻館の中を見たいという
少年の願望を知った美絵は、
それを利用して
少年を死に至らしめる…。

粗筋以外に、
やや説明を要する作品です。
貝殻館とは、
ある海岸に建てられた
からくり仕立ての洋館であり、
美絵と月代は、その主人の
妻の座を争っていたのです。
美絵は月代を殺害した後に、
同じ客人の緑川という男と
遭遇しそうになるのですが、
間一髪その危機を乗り越えます。
しかし実は
監視小屋の少年に双眼鏡で
見られていたというわけです。
美絵はその少年の殺害にも成功し、
どちらも事故死として
処理されるのですが、
この緑川が探偵役として
事件を解決するのです。

本作品の読みどころ①
貝殻館という奇抜な舞台装置

夢幻郷のような光を発する部屋、
血みどろの生首が見える覗き窓、
鸚鵡や大蛇の蠢く部屋、
真珠色の水を湛えた大理石の浴槽、
等々、江戸川乱歩ばりの
奇妙奇天烈な屋敷が舞台です。
短編作品で終わらせてしまうのが
もったいないような構造です。

本作品の読みどころ②
死人がよみがえる蘇生術

緑川は少年の遺体を持ち出し、
関係者を集めて
なにやら怪しげな蘇生術を施します。
埋葬された死体が
後日息を吹き返した等の、
海外の蘇生例がその前後に記述され、
いやが上にもおどろおどろしさが
高揚します。

本作品の読みどころ③
謎の人物・緑川の荒々しい謎解き

名探偵を登場させるという
手もあるでしょう。
でも、この緑川の謎解き、
いや犯人・美絵を陥れるかのような
策略は見事です。
名探偵にはできない、
半分犯罪ともいえる強引な手法こそ、
本作品の読みどころです。
まあ、犯人は美絵であることが、
読み手には
分かっているのですから、
普通にやっても謎解きには
ならないでしょうから当然です。

争っている女二人の
一方が他方を崖から突き落とすという、
TVの2時間もののミステリー劇場を
探せばいくらでも見つかるような
陳腐な殺人風景から、
このような展開を
創りあげるのですから、
さすが横溝です。

緑川の謎解きの顛末は?
犯人・美絵はどうなったか?
読んでみてのお楽しみです。

※残念ながら
 本作品が収録されている
 「蔵の中・鬼火」は現在絶版中です。
 昨年、精文館限定で
 復刻再出版されましたが、
 すでに完売のようです。
 旧版とはデザインが
 微妙に異なっているので
 欲しかったのですが
 入手できませんでした。
 なお、柏書房刊の単行本
 「横溝正史ミステリ
 短篇コレクション2 鬼火」にも
 収録されています。
 税別2600円とやや高めですが。

(2019.2.24)

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