「質問する、問い返す」(名古谷隆彦)③

高校生の悲痛な「問いかけ」

「質問する、問い返す」(名古谷隆彦)岩波ジュニア新書

本書「第8章そして問い返す」には、
福島原発事故に関わる、
心に刺さってくる記述がありました。
震災2ヵ月後、
福島県立高校の教諭が
教え子の高校生の率直な思いを
全国に発信した記事です。

「こんなに放射能が高い福島市が
 避難区域にならないのはおかしいべ。
 福島や郡山を避難区域にしたら
 新幹線や高速を
 止めなくちゃなんねえって、
 俺たちは経済活動の犠牲になって
 見殺しにされるってことだべした。
 こんな中途半端な状態は
 我慢できねえ。
 だったらもう一回
 ドカンとなっちまった方が
 すっきりする」

一見過激に見えます。
他方面からクレームが
寄せられたことが記されています。
しかし、
極めて率直な疑問だと思うのです。
誰しもが不安に感じていながらも、
「復興」という流れのもとに、
そうした疑問を口にすることが
許されない「空気」が
醸成されていたのでしょう。
その中での悲痛な「問いかけ」に
思えてなりません。

全体の空気に
水を差す結果になろうとも、
おかしいことはおかしいと
口に出すことができる。
そうした能力こそ
これからの日本人に
大切なのではないかと思うのです。

トップの意向をくみ取って
それに沿った発言をする。
そのような「空気を読む能力」が
これまでは大切とされてきましたが、
その結果、
私たちは「異議を挟む能力」を
十分に身に付けないまま
生きてきたのではないかと
反省しています。

本書のテーマでもある
「主体的に学ぶ」ことは、
「問いを発する」ことに
つながっていくはずです。
それは「これが正しい」と
思われていることに対して
一度批判の目を向けることであり、
「異議を挟む」ことであり、
「正しく抗う」ことだと思うのです。

一昨日も書きましたが、
これまで以上に
「学び」が変わってきています。
どんな能力が
これからの社会にとって必要なのか、
考え続けることが
私たち一人一人に求められます。

2019年3月3日の福島市中央部の
線量は0.16μSv/h。

東京都新宿のそれは0.042μSv/h。

いまだに約4倍の
線量を記録しています。
当時の福島市の
高校生の「問いかけ」に、
私たちは答えているのでしょうか。

(2019.3.7)

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