「これが原発だ」(樋口健二)①

原発は、実は労働者の犠牲の上に成り立っていた

「これが原発だ」(樋口健二)岩波ジュニア新書

現在87万kWの発電を行っている
関西電力・高浜原発4号機が、
再稼働直後に緊急停止したのは
3年前の2016年3月でした。
同機はその数日前にも
放射能漏れを起こしたばかりでした。
これが「安全性が確保された」状態と
いえるのかと、
その当時、疑問に思いました。

そんな最中に読んだ本書、
背筋が寒くなるような内容でした。
ジャーナリストである著者が、
巨大な電力会社を相手に
ねばり強く交渉した末に、
自ら防護服を着て
原発内部の写真を撮影・取材した、
渾身のルポルタージュです。
実は原発内部で働いている作業員は、
劣悪な環境の中で被曝を
余儀なくされているというのです。

著者はまず、
被曝した原発作業員を一人一人訪ね、
丁寧に取材しています。
放射能の知識を与えないまま、
半ば強引に作業させる手口。
被曝線量を管理する
線量計の記録の捏造や改ざん。
防護マスクを外さなければ
作業できない現場環境の放置。
労働者を、まるで使い捨ての
道具か何かのように考えているとしか
思えない状況が、
詳細に報告されています。

そして被曝により発症すると、
さらに厳しい現実が
労働者に待ち構えています。
働けなくなるとすぐ解雇。
決して放射線との因果関係を認めず、
原因不明・老化などと認定する、
電力会社の圧力下にある
地元病院、そして大学病院。
それについて事実を
直視しようとしない裁判所。
すべてに強者の論理が
まかり通っているのです。

なお、ここでいう原発作業員とは、
電力会社社員ではありません。
下請け、孫請けの労働者たちです。
原発従事者には当時日当7万円が
支払われていたそうですが、
実際に労働者が受け取るのは
多くて1万5千円。
その多くが
ピンハネされていたのだそうです。

3.11以降、
事故後の原発作業の被曝の問題ばかり
クローズアップされてきました。
そうではないのです。
原子力発電所は、
事故が起きずに「安全」に
稼働していたとしても、
常に被曝者を
生み出し続けているのです。
原発による「安全で安価」な電力供給は、
実は労働者の生命や健康の犠牲の上に
成り立っていたのです。

電力は、私にはこれまで、
原発の本当の姿が
見えていなかったことに
気付かされました。
子どもだけでなく、それ以上に
大人の私たちが読むべき一冊です。

(2019.3.13)

Image by distel2610 on Pixabay

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