「これが原発だ」(樋口健二)②

子ども以上に大人の私たちが読むべき一冊

「これが原発だ」(樋口健二)岩波ジュニア新書

前回取り上げた衝撃の一冊。
本書の第4章で、著者は
海外へも目を向けています。
台湾とマレーシアの核事情についてです。

一つめの台湾については、
原発労働者の、日本以上の
過酷な状況について
取り上げられています。
それだけではなく、
台湾本島から76km離れた
島の住民をだます形で、
核廃棄物貯蔵施設が
建設された経緯を説明しています。

もう一つのマレーシア。
原発がらみではないのですが、
こちらの方が重大です。
ブキメラという村にある
エイシアン・レア・アース社
(ARE社)は、日本の三菱化成と
現地企業との合弁会社です。
この工場が
セリウムやイットリウムなどの
レア・アースを精製する際に生じる
放射性トリウムを含む廃棄物を、
工場周辺に不法投棄した問題が
取り上げられています。
日本企業が出資し、
経営面・技術面で主導権を握り、
かつ技術管理の
すべてを行っている企業が、
他の国で人命を軽視する
違法行為を堂々と
行っていたといのですから驚きです。

世界で唯一の被爆国であり、
核兵器について
世界一敏感な民族となった日本人が、
核物質そのものの怖さについては
恐ろしいほど鈍感であることが、
このことからもよくわかります。

フクシマ以降、教員を対象とした
「放射線についての正しい知識を
児童生徒に伝達するための講習会」
のようなものが、
文科省や県教委の主催で
行われてきました。
そのほとんどは、
「核は必要以上に恐れるべき
ものではない」という内容です。
本当に伝えるべきは、こうした
危険な「事実」ではないのだろうかと、
ふと考えてしまいました。

さて、これほどの
重大な告発を含んだ書が、
なぜこれまで
大きく取り上げられなかったのか
不思議です。
そして、本書に続いて
原発労働の危険を
伝えるジャーナリストが
登場しないのも疑問です。

なお、これだけの凄惨な状況を
リポートしながら、
著者は本書では
電力会社や政府の批判は
行っていません。
ただただ労働者の視点から、
現実に起きたことを
冷静に伝えているのです。
そして本書出版は1991年。
決して感情論を振りかざした
反原発書ではありません。

昨日に続き、再度書きます。
本書は岩波ジュニア新書の一つですが、
子ども以上に
大人の私たちが読むべき一冊です。

※参考までに本書の章立てを。
 1 原発取材への道
 2 被曝に苦しむ人たち
 3 原発の裏の顔に迫る
 4 カメラは東南アジアへ
 前回は第2章、今回は第4章を
 中心に取り上げましたが、
 圧巻はやはり第3章です。
 ぜひ読んでいただきたいと思います。

(2019.3.13)

Image by geralt on Pixabay

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