厳しい現実を突きつけられて幕を閉じます
「世界地図の下書き」(朝井リョウ)
集英社文庫
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/03/2019.03.20-2.jpg)
両親を事故で亡くした
小学生の太輔が、
「青葉おひさまの家」で
暮らし始めて三年が過ぎた。
お姉さん的存在であった
佐緒里が卒業を機に施設を出る。
一緒に生活してきた
太輔・淳也・麻利・美保子は、
彼女のために
ある計画を立てる…。
太輔(小6)・佐緒里(高3)・淳也(小6)
・麻利(小4)・美保子(小5)の5人は、
児童養護施設の同じ班で
生活している子どもたちです。
主人公・太輔は、
両親を突然の交通事故で亡くし、
預けられた伯父夫婦に虐待を受け、
心に傷を負ったまま
入所してきたのです。
本作品は太輔が
いくつかの困難を乗り越え、
大きく成長していく
物語だろうと思って読み進めました。
ところが、普通の
「少年成長物語」とは一味違います。
最後は厳しい現実を突きつけられて
物語は幕を閉じます。
では、太輔の成長とは?
太輔の成長①
視野が広がる
自分ひとりが不幸を背負っている、
自分だけがひとりぼっち。
仲間はみんな明るく過ごしている。
そう思い込んでいた太輔は、
一人一人に事情があることに
気付きます。
親の家に行ったはずなのに
靴を泥だらけにしてきた美保子。
雨の中、友達の家から
裸足で帰ってきた麻利。
自分の教室を太輔に見られることを
頑なに拒んだ淳也。
そして、もっともしっかりしていて
自分たちが甘えられる
存在だった佐緒里もまた
何かを抱えていることに、
太輔は気付いていくのです。
太輔の成長②
現実を受け止められる
最後の場面は心の中に暖かい風が
吹き抜けていくような感動が
押し寄せてきます。
ところが、決して
ハッピーエンドではありません。
佐緒里だけではなく、
淳也・麻利の兄弟、
そして美保子も施設から旅立ちます。
みんなとの別れを、
太輔は受け止めていくのです。
そして、努力しても叶わない
夢があるということを、
自分の力では変えられない
現実があるということを、
太輔は受け止めていくのです。
太輔の成長③
自分の気持ちに気付く
太輔はそれまで佐緒里をお姉さん、
いやむしろお母さんとして
みていたのだと思います。
両親のいない太輔にとって
唯一甘えられる存在だったのです。
でも、
終末から三行目にある一文が、
物語を爽やかに締めくくっています。
「好きだったのだ、
この人のことを。とても。」
これだけ涙が溢れてくるのに、
これだけ心にほろ苦さの
残った物語は初めてです。
中学校3年生、そして
大人のあなたに強くお薦めします。
※「桐島、部活やめるってよ」で
注目された朝井リョウ。
本作品が初の
児童文学作品でありながら、
坪田譲治文学賞受賞。
このとき著者23歳!
すごすぎます。
(2019.3.20)
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