本戯曲は軽妙洒脱な短篇コメディ
「ペリカン家の人々」(ラディゲ/新庄嘉章訳)
(「肉体の悪魔」)新潮文庫
お気に入りの
家庭教師・シャルマン嬢が
下男・パルフェとともに姿を消し、
ペリカン氏は慌てる。
さらに、娘のオルタンスも
シャントクレル氏から
写真の講義を受けている最中に
家を出て行方が分からなくなる。
ペリカン氏の一家は…。
と書くと、
2件の行方不明事件が重なった
ペリカン家の悲劇的物語かと
勘違いしそうですが、
本戯曲は軽妙洒脱な短篇コメディです。
事情がやや複雑です。
ペリカン夫妻は
それぞれ浮気をしています。
ペリカン氏はおそらくシャルマン嬢と
関係を持っていたのでしょう。
ところがパルフェも
彼女に好意を持っていたのです。
彼女がハンモックから転落して
気を失っている間に、
パルフェは彼女をトランクに詰め込み、
家を出たのです。
結果的にペリカン氏の浮気は
これで解消されました。
ペリカン夫人は水泳教師・パステルと
逢瀬を重ねています。
行方不明となったオルタンスが
川に身を投げに行ったと知り、
パステルに救出を要請しますが、
彼は理論家であり、実際は金づち。
夫人はパステルに幻滅します。
よって夫人の浮気もこれで解消です。
オルタンス救出に向かった
シャントクレル氏は
逆に彼女に助けられる結果になります。
でも、彼女はその気持ちに感激し、
二人は結婚の約束をするのです。
というわけで、
バラバラだった家族が
最後は一つにまとまり、
めでたしめでたしと
いうことなのでしょう。
実は本戯曲、
一読しただけではよく分からない
構造になっています。
一つ一つの場面が異様に短いのです。
第一幕などは全12景のうち、
第1、2、3、4、7、11、12景までが
一人の登場人物の一つの台詞のみで
構成されています。
これは文章として
描かれていない部分が多すぎることに
起因します。
ペリカン氏とシャルマン嬢、
夫人とパステル氏の関係は
前後の台詞から
推測するしかありません。
オルタンスとシャントクレルは
第二幕に登場した瞬間から
すでに愛し合っています。
これらは舞台上では台詞のない部分で、
演技によって表現されるものと
考えられます。
さて本戯曲、
本当に上演可能なのだろうかと思って
調べてみたら、
何と日本でも2004年に
KUNIOという団体が
講演を行っていました。
ネットでの写真を見る限り、
舞台を日本に置き換えた
高校生が主体の現代劇のようです。
観てみたいと思わせる
何かがありました。
(2019.4.11)