「14歳の水平線」(椰月美智子)①

極めて現代的な「成長」と「友情」が描かれている

「14歳の水平線」(椰月美智子)双葉文庫

中二病真っ只中で
いらついてばかりの加奈太は、
父親の故郷の島で
夏休みのキャンプに
参加することになる。
初対面の6人が集まって
共同生活を始めるが…。
そしてその島で、
加奈太の父・征人も
30年前の日々を思い出していく…。

少年の一夏の成長物語。
夏休みを舞台にした
このテーマの作品は数多くあります。
読むたびに「自分にも
こんな時期が確かにあった」と、
しみじみ思い返しながら
感傷に浸ってしまいます。
本作品も、14歳の主人公・加奈太が
夏休みのキャンプに参加し、その中で
自分と向き合っていく物語です。

東京での生活から
沖縄の孤島・天徳島でのキャンプ。
この非日常へと切り替わった舞台で、
大きな事件は起きません。
なぜなら4泊5日のキャンプに
スケジュールは
一切用意されていないからです。
課題は
「最終日までに何かを見つけること」。
ただそれだけです。
その中で6人の14歳たちは
ドラマを繰り広げるのです。

6人の子どもたちの
描かれ方が素晴らしいと思います。
それぞれが明確な個性を持ち、
それ故に最初は3対3で対立するものの、
最後はしっかりと打ち解け、
友情を育みます。
「お決まりの展開」といえば
それまでですが、
やはり少年の成長物語は
こうでなくてはなりません。

加奈太の心の成長のしかたが明確です。
主人公の心のもやもやが晴れただけで、
何がどう成長したのか
今一つ伝わってこない作品も
多いのですが、
加奈太のそれまで内向きだった目線が、
広い視野を獲得したことが
しっかりと判ります。
「みんなひとりひとりに
 別々の生活があって、
 学校に行って、友達がいて、
 家族がいて…。
 みんな言わないけど、
 きっと大変なことや悩みがあって、
 きっとおれだけじゃなくて…」

そしてベタベタの友情にはなりません。
固い関係を築き、
一つになることを盲目的に
賞賛したりはしていません。
お互いの違いを理解した上で、
互いに認め合う、受け入れ合うという
現代的な人間関係を、
6人は構築したのです。
「また会いたいな、とは
 誰も言わなかった。
 おそらく、連絡を
 取り合うこともないだろう。
 これから、それぞれが
 自分の場所に帰ってゆくのだ。」

6人の14歳たちは、
これまで自分たちには
見えていなかったものを、
しっかりと
見つけることができました。
極めて現代的な
「成長」と「友情」を描いた
椰月美智子の文庫本最新刊。
14歳の中学校2年生にお薦めします。

(2019.4.15)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA