子どものための大人理解の書
「14歳の水平線」(椰月美智子)双葉文庫
昨日は本作品について
「少年の一夏の成長物語」と
紹介しました。
今日は別の一面について
取り上げたいと思います。
思春期の子どもが
その特有の悩みに悶々とし、
周囲との関わりの中から
自分を見つけ出していく物語は、
世の中にたくさんあります。
思春期の子どもを前にして、
悩みうろたえながらも
必死で子どもと
向き合おうとする物語も、
同様に数多く存在します。
しかし、その両方を兼ね備えた小説は、
実は少ないのではないでしょうか。
本作品は、
主人公である「14歳の加奈太」、
その父親である「44歳の征人」、
そして30年前の「14歳の征人」の
3つの筋書きが同時進行的に紡ぎ出す
三次元の「成長物語」です。
島を舞台に交錯する
父子の思春期が読みどころです。
「14歳の加奈太」と
「14歳の征人」の2人は、
同じ岬から海へ飛び込む、
同じように謎の美少女と出会う、
同じように妖怪・ドゥヤーギーに
恐れおののく…。
時代は違っても、
14歳はやはり14歳なのです。
そして「14歳の加奈太」も
「14歳の征人」も、
友だちとの関係に難儀します。
悩みながらもそれを解決し、
同じように自身の成長に繋げています。
「44歳の征人」はそれを回想しながら、
「自分にも確かに
14歳の頃があったのだ」という、
至極当たり前のことに
気付いていくのです。
この、大人である「44歳の征人」が
子どもの「14歳の加奈太」を
理解しようとする姿から、
読み手である子どもたちは、
自分の周囲にいる
大人の本当の姿を考えることが
できるのではないかと思うのです。
ともすれば子どもたちは
「大人は何も判ってくれない」、
あるいは
「大人なのになぜ判ってくれない」と
思いこみがちです。
しかし、大人であっても
かつては思春期の時期があり、
それを通過して
ここまで生きてきたということ、
大人であっても
迷い悩みながら
生きているということ、
そして大人であっても
日々成長し続けているのだということ、
それが子どもたちに
しっかりと伝わるはずです。
いわば本書は
「子どものための大人理解の書」なのです。
350ページのボリュームですが、
読み始めると引き込まれ、
一気に読んでしまいました。
子どもたちの夏休みの読書として
最適の一冊です。
昨日も書きましたが、
14歳の中学校2年生に
強く薦めたいと思います。
(2019.4.15)