現代の女性には到底受け入れられない主題
「独りきりの世界」(石川達三)新潮文庫
若く知的な女性・小泉真咲は、
自分が女性であることによって
人生が限定されていることに
不満を持っていた。
自分を取り巻くどの男性にも
心身を任せる決心が付かない。
彼女は自分の心の中の
孤独と向き合い生きようとする…。
大きな筋書きの変化に乏しい
「事件の起きない」展開です。
昭和52年発表の本作品は、
主人公・真咲がいろいろな男性・女性と
関わることによって生じた、
自分の生き方についての
葛藤を綴った作品なのです。
登場人物が実に多いのですが、
同性である女性の生き方に対して、
真咲が批判をする場面が目立ちます。
秋野那美。
演出家の男性と同棲していながら、
若い学生との肉欲に走るものの、
結局はその若さに満足できず、
またもとの生活に戻ります。
パートナーにスリルを求める
那美の刹那的な生き方に、
真咲は違和感を覚えます。
同じマンションに住む女性・坂本。
未亡人であり、旅行で知り合った
名古屋の学生と関係を持つものの、
破局を迎えます。
うまくいくはずかないと
理解していながらも
学生にのめり込む彼女の、
理性のない行動に
真咲は哀れみを感じます。
氏家京子。
内縁の夫に
経済的に支えてもらいながらも
浮気を繰り返し、
困窮しては真咲に泣きつきます。
彼女に子どもがあったら、
計画的な人生を送れたはずと
真咲は同情を寄せながらも
苦言を呈します。
真咲と同い年の女性・富岡。
相手に他の女性がいると知りながら
生活のために結婚を熱望しますが、
懐妊してもそれは叶いませんでした。
経済的に男に寄りかかる生き方を
「結婚というよりは
半永久的な契約売春」と、
真咲は切り捨てています。
その一方で、真咲が共感し、
生き方を肯定している女性は、
宮永夫人と松島夫人です。
二人とも夫に傅きながら、
そのこと自体を楽しんで
老年まで生きてきたのです。
そうです。
本作品は、一人の人間として
生きようとした女性・真咲が、
女性の自立とは
孤独な世界に生きることという
諦観にも似た心情を悟る物語なのです。
そしてそれは
作者・石川の結婚観でもあるのでしょう。
「耐え忍ぶところから
女の人生は始まる。
耐え忍びながら
人生に根をおろして行く。」
女性の自立を「絵に描いた餅」だと
言っているような主題は、
現代の女性には
到底受け入れられないでしょう。
しかし、
そこにこの当時(昭和40年代)の
日本の男性の女性観が
凝縮されているのです。
そこから何を学び取るかが
読み手に問われています。
(2019.4.16)