「八十日間世界一周」(ヴェルヌ)①

「手に汗を握る」とは、本作品のためにある

「八十日間世界一周」
 (ヴェルヌ/高野優訳)
  光文社古典新訳文庫

謎の紳士・フォッグ氏は、
改革クラブの友人と
大金2万ポンドの賭をした。
それは80日間あれば世界を
一周できるというものだった。
成功に絶対の自信を持つ彼は、
召使いパスパルトゥーを従えて
その日のうちに
ロンドンを後にする…。

勘違いをしていました。
私は本作品を、
気球に乗って世界を一周してしまう
古典SFファンタジーだと
思っていました。
50を越える今日まで。
「80日」という日数を、
知らず知らずのうちに
現代の物差しで考え、
そんなのんびりした旅なら
気球か何かだろうと
勝手な想像をしていたのです。
違いました。SFではありません。
リアルな冒険小説なのです。

舞台は1872年。
ピンとこないかもしれませんが、
日本では「大政奉還」が起きた
わずか5年後なのです。
飛行機など存在せず、
船と汽車での移動です。
「80日」は「のんびり」するような
余裕の微塵もないものなのでした。

それにしても面白すぎます。
「手に汗を握る」とは、
本作品のためにあると言っても
過言でありません。

手に汗握る要素①
シチュエーションが過酷

全財産の半分を賭金に、
残りを旅行費用に
充てているのですから、
タイムリミットをクリアしても
儲けはなし、
そして間に合わなければ
破産してしまうのです。
そんなスリリングな
賭の設定をしてしまう。
さすがジュール・ヴェルヌ。

手に汗握る要素②
あらゆる乗り物を駆使

19世紀末ですから
乗り物は限られています。
作者・ヴェルヌはそれらすべて投入し、
物語を盛り上げます。
蒸気船から始まり、鉄道はもちろん、
像の背中、小型スクーナー、雪橇、
貨物船と、何でもありです。
さすがジュール・ヴェルヌ。

手に汗握る要素③
次々襲い来る困難

冒険小説ですから、
すんなりいくはずがありません。
次から次へと困難が襲ってきます。
フォッグを銀行強盗と
勘違いした刑事・フィックスが
邪魔をしたかと思えば、
米原住民が列車を襲撃する。
ヒンドゥー教徒の一団から
美女を救出しに向かったかと思えば
パスパルトゥーは行方不明になる。
ようやく列車に間に合ったかと思えば
鉄橋は落下寸前。
ハラハラドキドキの連続です。
さすがジュール・ヴェルヌ。

さあ、フォッグ氏一行は
タイムリミットに間に合ったのか?
最後にどんでん返しが
待ち受けています。
ぜひ世界文学史上に燦然と輝く
本作品をお読みください。

※ちなみに現代であれば、
 航空機で10日もあれば
 ゆっくり観光を楽しみながら
 世界一周できるでしょう。
 ファーストクラス運賃・ホテル代で
 128万円というのを
 ネットで見つけました。
 行きたいとは思いませんが。

(2019.4.23)

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